自動車部品のケーヒン、国内回帰で生産性5倍に

 ホンダ系部品メーカーのケーヒンが、中国や東南アジアに移していた生産を日本に戻している。国内の生産量は2年後に2〜3割増える見通しだ。円安や新興国での賃金上昇だけが国内生産回帰の理由ではない。技術力の蓄積がある日本の工場で低コストの製造技術を磨くことで、海外でも持続的な競争力をつける狙いだ。

■工場の広さはマンション並み、自社開発ロボットが活躍

 宮城県角田市内にあるケーヒンの工場の一角。マンションの一室程度の広さの部屋に所狭しと並べられたロボットが大きな音を立てながら続々と部品をくみ上げていく。縦にずらりと人が並び作業する工場のイメージとかけはなれたこの現場こそケーヒンが注力する「日本回帰ライン」だ。

 同ラインでは排ガス中の汚染物質を低減するための四輪車用の「EGRバルブ」を製造する。もともと中国の工場で生産していたが、2014年末に日本市場向けの生産分を宮城工場に移した。1カ月の生産量は2万7000台程度。ロボットを活用することで、1ラインの人数は4人と、中国に比べ4分の1に減らし、1つあたりの製造時間も2秒短くした。生産性は中国での製造に比べ5倍近くになるという。

 「日本の工場の役割はなんだったか。もう一度考え直した」。渡辺政美専務執行役員は国内生産回帰の理由をこう説明する。ケーヒンは燃料噴射装置などエンジン関連部品を主に手掛けるティアワンと呼ばれる完成車メーカーの1次取引先だ。ホンダの現地調達、現地生産という方針もあり、ここ数年で海外で大幅に生産拠点の拡充を進めてきた。

 ところが「海外移管でコスト削減はできたものの、生産技術の進化はとまってしまった」(渡辺専務執行役員)という。そこでいったん日本に生産ラインを戻して効率を高めたうえで、もう一度海外に戻すという手法を編み出した。

 ラインの低コストの体質づくりを担うのが、工機部と呼ばれる製造設備や製造方法の開発部隊だ。同部では従来に比べ回転数を4倍に引き上げた切削加工機や、これまで人が手掛けていた細かい作業ができるロボットなどを開発した。省人化と作業速度の向上で円高に振れても採算を確保できる生産体制をつくりあげる。

 製造設備を市販品から内製に切り替えることは、製造現場の要求にあった性能に近づけられるだけでなく、設備自体の費用も抑えられる。これらの設備も日本での立ち上げを経て将来はアジアで展開する。

■調達も国内拡大、取引先に加工法提案しコスト削減

 高効率化のための改革はケーヒン内部にとどまらない。購買部門を通じて2次取引先に対し新しい加工法などを提案、ノウハウを共有してコスト削減を目指す。宮城工場で手掛けるEGRバルブも現在は一部構成部品を中国から輸入しているが、今後は全て日本での調達に切り替える。「中国での生産よりも部品調達コストを15%削減するのを目指す」と渡辺専務執行役員は意気込む。

 日本経済をとりまいてきた六重苦は、円安や法人税の引き下げでやや解消の方向に向かい、大手製造業各社の国内の採算性は改善されている。とはいえ人件費の高さなど日本のものづくりの現場環境はなお厳しい。ケーヒンはそうした課題をむしろ知恵や技術を生み出す糧として、自らを進化させようとしているように見える。
(企業報道部 香月夏子)

nikkei.com(2015-04-06)