「品質」に揺れたホンダ HVや安全技術で反転攻勢へ

 2013年から2014年にかけて主力の小型車「フィット」などで相次ぎリコール(回収・無償修理)を発表し、品質問題に揺れたホンダ。そんな同社が品質の総点検を終え、品質管理体制を強化。いよいよ反転攻勢に出る。ホンダは2014年12月に新車販売を再開し、2014年度末までに5〜6車種を相次いで発売する。例えば、新型レジェンドでは、3モーター式ハイブリッド車(HV)で新たな市場開拓に挑戦する。安全技術では、新しい先進運転支援システム(ADAS)を投入し、先行する他社を追い上げる。


■新興国向けの車をハイブリッド化

 グレイスはフィットの派生車ではなく、新興国で販売されている「City」の兄弟車になる。Cityと同じプラットフォームに、1モーターのハイブリッドシステムを搭載する。開発・生産コストを抑えるため、同じプラットフォームにエンジンとハイブリッドシステムの両方を搭載できるように設計した。

 グレイスはホンダにとって、これまでの商品構成で欠けていた「5ナンバー・4ドアセダン市場」を開拓する戦略車である。競合車になるとみられるトヨタの「カローラハイブリッド」などに対して、燃費や価格などの面でどれだけ競争力を持てるかが鍵になりそうだ。

 新車の第2弾が、2015年2月22日に発売した旗艦車種の「レジェンド」である(図2)。2014年11月の発表会で社長の伊東孝紳氏は、「現時点で当社が持つ最高の技術を投入した」と強調した。


 その一つが、3モーター式のハイブリッドシステム「SH-AWD」である。4輪の駆動力を曲がるために使う4WD(4輪駆動)機構として開発したエンジン用のSH-AWDを、HV向けに進化させた。車体前部に排気量3.5LのV型6気筒直噴エンジン「i-VTEC」とモーターを内蔵した湿式の7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を、車体後部に二つのモーターを搭載する。

 発進加速時や電気自動車(EV)走行時は後部のモーターだけを使い、ハイブリッド走行時にはエンジンで前輪を、後部の二つのモーターで後輪を駆動させる。緩やかな加速時や高速走行時は、エンジンで前輪を駆動する。

 前部のモーターはエンジンの始動や駆動支援のほか、減速時にエネルギーを回生するジェネレーターとして使う。後部モーターのうち、曲がる側(内側)を回生に、外側を駆動に使う独立制御によって、コーナーを曲がりやすくした。

■「バーチャルけん引」技術も開発

 もう一つが、最新のADAS「ホンダセンシング」である。レジェンド以外の新車にも、順次搭載していく計画であり、部分改良して2015年1月23日に発売したミニバン「オデッセイ」や、2月13日に発売した新型ミニバン「ジェイド」に搭載している。

 システムは、77GHzの周波数に対応したミリ波レーダー(検知距離120m以上)とカラーの単眼カメラで構成。ミリ波レーダーの性能を向上させて前方車両の位置や速度だけでなく、これまで難しいとされてきた歩行者も検知できるようにした。単眼カメラの解像度は従来の640×480画素から1200×800画素程度に高めており、約60m先までの歩行者や障害物を識別できる。

 これらのミリ波レーダーと単眼カメラを使った「歩行者事故低減ステアリング」は、約10〜40km/hの範囲で作動する。路側帯の歩行者や白線などをレーダーとカメラで検知し、歩行者との衝突が予測される場合にステアリングを回避する方向に制御し、運転者の操作を支援する(図3)。


 自動運転技術でも、先行するトヨタなどへの追い上げを急ぐ。米国デトロイト市で2014年9月に行われた「ITS世界会議」でホンダは、高速道路で自動運転するデモを実施した。ミリ波レーダーやステレオカメラ、レーザーレーダーなどで構成するシステムを使って、ステアリングやブレーキなどを自動制御し、合流や分岐、車線変更などをする様子を披露した。

 同社初の技術として、車車間通信を使った「バーチャルけん引」のデモも見せた。運転が困難になった場合に、その車両をほかの車両が誘導するものだ(図4)。


 ただし、こうした新商品・新技術でホンダが復活するかは未知数だ。中国ではHV以外の主力車(アコードやCR-V)の販売が振るわず、北米では搭載するエアバッグのリコール問題も抱える。反転攻勢には、品質を高めた上で商品を磨き上げる力が求められそうだ。
(日経Automotive 高田隆)

nikkei.com(2015-03-16)