車の機能、ソフトで加える時代 日本企業にできるか

林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

 最近、「iモード」の生みの親の1人である夏野剛氏が、米テスラ・モーターズの最新電気自動車「モデルS」を購入した。会うとよくその話をする。

 最近は、高速道路の運転中や渋滞時などに前の車の後を自動でついていく自動追尾機能や、狭い駐車スペースにもピタっときれいに駐車をしてくれる自動駐車機能などが人気だ。自動運転で出遅れた日本車にもこうした先進機能が搭載され始めている。ところが、夏野氏が購入したテスラのモデルSは、最先端のテクノロジーを凝縮した自動車であるにもかかわらず、こうした機能がなかったそうだ。

■ちゃんとしたソフト作れなかった日本の家電メーカー

 しかし、ある日、車内中央の巨大なパネルに「ソフトウェアアップデートがあります」と表示されたので、ボタンを押してみると、すぐさまその場で通信が始まり、先ほどまでなかった上記の機能が搭載されてしまった、という。

 今、車のIT(情報技術)化、あるいは別の言い方をすればソフト化が進んでいる。日本の家電メーカーは、この「ソフト化」という大きなトレンドを見逃したことで衰退が始まり、いまだに苦汁をなめ続けている。

 2007年、米アップルがスマートフォン(スマホ)「iPhone」を発表した直後、最高経営責任者(CEO)だった故スティーブ・ジョブズ氏が携帯音楽プレーヤー「iPod」成功の理由を聞かれ、こう答えていた。

 「日本の巨大な家電メーカーは、かつて携帯型音楽プレーヤー市場を発明し牛耳っていたが、ちゃんとしたソフトをつくることができなかった。ちゃんとしたソフトを考えることも実装することもできなかった。本当はiPodはソフトなんだ。あの本体に収まったソフトと、パソコン用のソフトと、音楽購入用のソフトの組み合わせだ。確かに美しい箱に収まっているが実体はソフトなんだ」

■新機能はハードではなくソフトで実現

 家電製品のコンピューター化が進み、新機能を搭載するにも、それをハードよりもソフトで実現するのが21世紀の主流だ。ところが、多くの家電メーカーの経営層はハード畑出身で、ソフトの重要性を肌で感じ取れず、現在の苦境を招いた。

 問題は、これまで対岸の火事に見えたソフト化の流れが、やはりコンピューター化が進んだ自動車の世界にも入りつつあることだ。

 振り返ってみれば、10年前の音楽プレーヤー市場、5年前のスマホやタブレット(多機能携帯端末)市場で最も重要だった製造技術は「ソフト開発力」だった。それと同様に、これから自動車づくりでもっとも重要な技術も「ソフト開発力」になる。日本の自動車会社は、この脅威をどれほど肌で感じ取れているだろうか。

 確かに自動車づくりでは、他にも重要な技術がいくつもある。しかし、そうしたノウハウは下請けの関連会社が持っていることも多く、グローバルビジネス競争の世界では、それらの企業を買収することであっけなく獲得できることも多い。実際、2010年には倒産しかかっていたトヨタと米ゼネラル・モーターズ(GM)による低コスト・高効率な製造工場を持つ合弁会社、NUUMIはテスラに買収されている。

 家電メーカーの失敗を繰り返さないためにも、日本の自動車メーカーは、これまでのノウハウや品質を保ちつつ、うまくソフト化の波に乗ってほしいと思う。

[日経産業新聞2015年3月10日付]

nikkei.com(2015-03-10)