「石油いずれ枯渇」どうなった
新技術、埋蔵量わき出す 硬い岩盤・海底も採掘可能

 昨年夏ごろから原油の価格が急激な勢いで下がった。ガソリン代や冬場の灯油代の負担が軽くなって家計には朗報だが、安いからといって地球規模でたくさん消費すると、将来、なくなってしまう心配はないのか。そういえば、昔、「石油はいずれ枯渇する」とした見方があったが、今、どうなったのだろう。

 石油や天然ガスを「化石燃料」と呼ぶのは、大昔の動物や植物、プランクトンの死骸が地中深くの地層で分解され、圧力と高い温度の下で長い時間をかけてできたものと考えられているから。なかでも油田から得られるどろどろした液状のものが原油、気体の状態で存在するのが天然ガスだ。

 広い意味でとらえると天然ガスも石油に含まれることになるが、普通は液体のものを石油、気体のものをガスと区別して使う。天然ガスをタンカーで運搬しやすいように液体にした場合は液化天然ガス(LNG)という。

より深い場所へ

 石油は化学構造でみた場合、炭素と水素が結びついてできた炭化水素からできている。硫黄化合物や窒素化合物、金属類も含まれており、質のいい石油ほど硫黄や金属分が少ない。例えば、ナイジェリア産の石油は質がよく、ベネズエラ産は硫黄分が多く質が劣るとされる。

 石油は地下5000メートルまでに大部分が存在する。地下1000〜3000メートルのところから特によくとれる。

 米国で開発が進むシェールオイルやガスは英語で「シェール」と呼ばれる「頁岩(けつがん)」からなる地層にある。これまで石油が見つかった場所よりさらに深いところとされる。その分、掘削は従来より難しく高度な技術がいる。シェール層内の石油は硫黄分などが少なく良質なのが特徴だ。

 石油は地下から採掘して得られる原油のままだと燃料や石油製品として使えない。熱していきながら成分を軽い順にガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などに分離して使用する。

 石油のもとになる生物の死骸がとりこまれる「根源岩」、炭化水素が濃く集まった「貯留岩」、炭化水素が地表へ抜け出るのを防ぐ「帽岩」の3つの岩石がそろった場所を「炭化水素のトラップ」といい、化石燃料が存在するための条件とされている。

 中東地域に埋蔵量が多いのは、赤道直下付近の気候に加え、有機物を多く含む根源岩が多く、根源岩から貯留岩への移動が効率的で、その後の地殻変動があまりなかったことなど、様々な条件がそろっていたからだ。

 実はこうした石油の有機起源説と対立する学説もある。46億年前の地球誕生時に地球表層に存在したメタンなどの炭化水素が地球深部に封じ込められ、それが今の時代に深部から地表に向かって上昇してきたという無機起源説だ。太陽系では地球以外の惑星にはメタンのような炭化水素の存在が知られており、地球にもメタンがあったはずだというのが根拠となっている。

 石油資源に詳しい広島大学教授の福岡正人さんは「大多数の学者が有機起源説を支持している。地下(地殻下部からマントル上部付近)に炭化水素が集中しているという科学的証拠はなく、炭素や水素などの研究からも説明がつかない」と解説する。

 有機起源説の立場をとると石油資源には限りがあることになる。新興国などの経済発展とともに世界での需要が増えると枯渇するのはそう遠くないとも思えるが、埋蔵量は年々増加しており、仮になくなるとしてもまだまだ先という見方が今は主流だ。

なお残る未開拓地

 1990年代までは主に貯留岩にターゲットを絞り、石油や天然ガスを取り出してきた。今世紀に入ると、根源岩など従来は技術や経済的な問題で開発できなかったところを掘ることができるようになった。「米国でのシェール革命もその一つ。世界中の貯留岩と根源岩に含まれている炭化水素の量を見積もると、根源岩の方が10倍近いという予想もある」(福岡さん)

 日本エネルギー経済研究所の森田裕二さんは「価格が高くなれば開発しても採算がとれる。中南米など今まで手をつけなかった地域、海底など未開拓な場所も開発するようになったことも理由だ」と語る。

 国際エネルギー機関(IEA)によると、未開拓な場所に眠る石油の埋蔵量は現在確認されている量の推計4.7倍。回収には技術的な課題と高コストの両方を解決しないといけないが、技術革新が進めば需要を上回る供給量の確保はそう難しいわけでもなさそうだ。
(川口健史)

nikkei.com(2015-02-06)