揺らぐホンダ リコールや報告漏れ、規模追い品質後手

 ホンダが揺れている。相次ぐリコール(回収・無償修理)に加え、米国で2003年から10年以上、タカタ製の欠陥エアバッグによる死傷事故を含めた1729件の報告も怠っていた。報告漏れは12年に米当局から指摘されていたが、本格的に行動を起こしたのは今年9月。対応が後手との批判が止まらない。稼ぎ頭の米国での失態は経営問題にもつながりかねない。一体、ホンダに何が起きたのか。

 「16年度に世界で(現在の1.5倍にあたる)600万台以上の販売台数を目指す」。12年9月、ホンダの伊東孝紳社長は高らかに宣言した。異例の発表だった。歴代のホンダのトップは中長期の目標販売台数を対外的に公表してこなかったからだ。

■車種拡大が影響

 この宣言はかつてホンダがこだわった技術力やキャラクターの強い車への追求から、「価格」や「量」を追う戦略転換だった。ある中堅社員は一連のリコール騒ぎの遠因に「経営ビジョンから“品質”という視点が抜け落ちてしまったことがあるのではないか」と話す。

 08年のリーマン・ショック後に就任した伊東社長は北米依存の収益体質を変えるべく、東南アジアやインドなど新興国開拓にも乗り出した。さらに国内ではスズキなどに押されていた軽自動車をてこ入れした。

 ただ、ホンダの開発の範囲はハイブリッド車(HV)や15年度末にも発売する燃料電池車、ディーゼルエンジンなどに広がっていた。「開発車種数に対して人数がまったく追いついていなかった」(ホンダの元技術者)。規模追求を急ぐその間に品質は置き去りにされた、というのが多くの社員の共通する認識だ。

 品質への問題意識の薄さは、消費者や当局への対応のまずさにも表れた。ホンダによると、11年の時点で報告漏れの可能性に気づいていた。さらに12年には米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)から指摘されていたにもかかわらず、「調査したが行動につなげなかった。緊急性の認識が欠けていた」(ホンダ)という。

 本腰を入れたのは今年9月。ホンダに対して、タカタ製エアバッグの欠陥に伴う死傷事故の報告件数が少ないのではないかとの指摘が強まった時期だった。

■不信感拭えるか

 ホンダが報告を怠っている可能性を早くから指摘していた米民間消費者団体の自動車安全センター代表のクラレンス・ディトロー氏は「隠蔽が意図的かを確かめるため、NHTSAは司法省に刑事訴追するよう申請すべきだ」と強調する。「ホンダのような洗練された企業がデータ入力や法解釈のミスを犯すとはとうてい信じがたい」(ディトロー氏)。後手にまわった対応は現地で不誠実と受け止められた。


 もう一つの問題としてタカタ製の欠陥エアバッグのリコール対応が遅いという批判もあがっていた。ホンダは04年にエアバッグの異常破裂を把握していたが、「拡大性がないと判断していた」(伊東社長)。07年に複数の異常破裂が起こった時点で本格的に調査を開始し、初めてリコールを出したのは08年だった。

 ホンダはすでに米国でタカタ製の欠陥エアバッグを巡り、累計685万台のリコールを実施しているが、事態の収束は遠い。目下、NHTSAはタカタに対して全米規模でのリコールを要求しており、タカタがこれに応じれば、ホンダのリコール台数はさらに数百万台増える可能性がある。

 ホンダの全世界の四輪車事業の売上高のうち、北米が占める割合は5割にのぼる。最重要市場だが、1〜10月のホンダの米新車販売台数は前年同期比0.6%増とわずかな伸びにとどまった。市場全体は5.5%伸びており、シェアは9.3%と0.5ポイント低下した。

 来月3日には米下院で欠陥エアバッグを巡る公聴会が開かれる。そこでこれまでのホンダに向けられた「不信感」を払拭できるか。大きな試練を迎えている。

nikkei.com(2014-11-30)