ホンダ反攻、高級車から 「レジェンド」復活

 度重なるリコールを背景とする国内の販売不振に悩むホンダが巻き返しののろしをあげた。10日、旗艦車種である最上級車「レジェンド」を発表、先端技術を盛り込み2年半ぶりの販売に踏み切る。これを皮切りに今下期から新型車ラッシュをかける計画だ。業界が円安で好業績に沸くなか苦しむホンダ。反発力を試される時を迎える。

 多目的スポーツ車「ヴェゼル」以来、約11カ月ぶりの新車発表会を開いた10日。久々に記者会見に登場した伊東孝紳社長は「レジェンドには考えうる最高の技術を投入した」と胸を張った。

 エンジンと3つのモーターを巧みに制御する最先端のハイブリッド車(HV)として、来年1月22日に発売する。高い走行性能と低燃費を売り物に「メルセデス・ベンツ」などのドイツ勢やトヨタ自動車の「レクサス」に真っ向勝負を挑む。価格は680万円。同等スペックのベンツ「Eクラス」を約230万円、レクサス「GS」を約50万円下回る。

■リコールおわび

 小型車「フィット」の連続リコール(回収・無償修理)を受け、今年度はすべての新型車の投入を凍結してきたホンダ。国内では来春までにあと5車種程度を立て続けに発表し、2015年度には高性能スポーツカー「NSX」などが続く。旗艦車種レジェンドは反転への起点となる。

 リーマン・ショックの打撃が残る09年に就任した伊東社長には東日本大震災、タイ洪水と苦労の連続だった。役員報酬の一部返上などで品質問題にひと区切りつけ、「ご迷惑をおかけしたことをおわびしたい」と前置きし「レジェンドを登場させられる喜びはひとしおだ」と語った。

 ホンダを取り巻く環境は厳しい。

 初の100万台超えを掲げた今年度の国内販売は10万台少ない93万台に下振れしそう。海外も元気がなく、中国では計画を10万台下方修正した。

 収益回復も遅れている。14年4〜9月期の四輪車事業の売上高営業利益率は3.9%。トヨタの9.5%に遠く及ばず、韓国・現代自動車(1〜9月期で7.2%)や独フォルクスワーゲン(同6.2%)も下回る。販売台数はすでにリーマン前を1割強上回るが、業績につながらない。

 利益を伴わない規模拡大――ホンダの現状はこう言い表せる。

 「こうした事態を招いた一端は台数目標を掲げた中期計画にあるのでは」。ホンダ社内ではこんな議論が交わされる。12年に発表した中計には、16年度の世界販売目標を発表当時の1.5倍の600万台と記した。規模を求めて合従連衡に動く他社と一線を画してきたホンダの「転向」とも受け止められた。

■軽・小型が8割

 だが、これまでに台数が増えたのは国内の軽、小型車とアジアの低価格車が中心。国内販売では利幅が小さい軽と小型車の割合が実に8割を超える。品質問題の背景にも規模を追う焦りがあったとみられる。

 伊東社長は会見で「順調ならそのくらいの台数になると算段したが(600万台という)数字が独り歩きした」と強調。「商品・サービスでお客様に喜んでいただくことが最優先だと肝に銘じていきたい」と軌道修正、「規模より品質」を打ち出し事実上、600万台の目標を棚上げした。

 ホンダブランドが最も輝いていたのは1990年前後。自動車レースの最高峰であるフォーミュラ・ワン(F1)にエンジンを供給して他を圧倒、年間16戦中で15勝をあげたこともある。レジェンドは年間2万台近くを売るヒットを記録した。

 立役者だったF1の名ドライバー、アイルトン・セナ氏やホンダ創業者である本田宗一郎氏も愛用したレジェンド。技術と品質にこだわってきた「ホンダの象徴だ」(伊東社長)。これを機に車名に冠するように復活への新たな「伝説」を刻めるか。ホンダはまず、その第一歩を踏み出した。
(小谷洋司)

《追記》
☆本田技研工業情報 「「レジェンド」をフルモデルチェンジし発売 〜3モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」を搭載〜」ここをクリック

nikkei.com(2014-11-11)