ホンダ、バングラデシュで二輪量産 投資抑制

 ホンダが装備を抑えた簡易型の二輪車工場の開発・運営をバングラデシュで進めている。人口1億5千万人と将来性の高い市場だが、インドと中国のメーカーに先行された。巻き返しのため初期投資の少ない「小さく身軽な」工場を同社で初めて建設。製造コストを抑えて量産できる生産体制の構築は、アフリカや南米など「フロンティア」市場を開拓する試金石となる。

 首都ダッカから車で1時間。青々とした田園の中にある工場に踏み入ると、白い作業服の男性が二輪車を乗り回していた。「高価な検査機械は導入できないため、1台1台に人が乗って不具合がないかを確認する」と光吉博司工場長は説明する。

 ■既存倉庫を改装

 2013年から現地生産を始めた。現地の合弁パートナーを政府系公社に代えて、本格的な市場開拓に乗り出した。ホンダの主力工場のひとつ、熊本製作所(熊本県大津町)で研究・開発した簡易工場「簡単どこでもパック」を世界で初めて稼働させた。

 出来合い部品を輸入して現地で組み立てるノックダウン方式で生産する工場は既存の倉庫を賃借して改装した。産業用の大型コンプレッサーなど高価な設備は使わず、充電式の電動工具を使用する。ベルトコンベヤーではなく、手で車体を押しながら部品をとりつける。メーンの組み立てラインの導入費用はわずか約200万円で済んだ。

 こうした取り組みにより、同じ規模の従来工場に比べ初期投資額を10分の1以下に抑えた。身軽なため市場規模が小さい新興国でもいち早く工場を構えられる。

 生産能力は最大で年8万台。従来工場の半分以下の規模だ。これまでは一定の販売量を確保してからでなければ工場を構えられなかったが、今回は小規模ながらより早く現地生産に踏み切るモデルケースとなる。

 バングラデシュの二輪車市場は年20万台と日本の約半分で、世界最大の隣国インドのまだ70分の1だ。だが1人当たり国内総生産(GDP)は960ドル(13年6月期)と二輪車需要に火が付くとされる1千ドルが目前。先行した印中メーカーが販売を伸ばしシェア9割を押さえる。ホンダは静観していられなくなった。

 ■競合車と同等

 挽回するには価格競争力が重要で投資がかさむ従来型の工場では勝負できないとみた。7月に生産を始めた「ドリームネオ」(排気量110cc)は14万2千タカ(約20万円)。ホンダの品質基準をクリアしつつ、シェア首位の印大手バジャジ・オートの競合車とほぼ同等だ。

 次の課題の販売体制づくりは道半ばだ。印中勢はそれぞれ専売店だけで100店以上を構える。ホンダはわずか8店。出店攻勢を強め14年度は北部中心に31店を開く。3年後には70店に増やし、今年度目標の8倍、年8万台の販売を目指す。  販売店を選ぶ際には現地法人バングラデシュホンダの水谷洋一社長自ら経営者を面接。資金力や熱意、ホンダ流の売り方を理解し実践できる力量などを見極める。

 店にはガラス張りの展示スペースを必ず設け、商品をおしゃれに並べる。先進国では当たり前だが、倉庫のように薄暗く閉鎖的な空間に商品を並べただけの既存の販売店とは一線を画す。接客や修理方法は一からホンダの営業員が指導する。  独自の店づくりでブランドイメージ向上も狙う。2月にホンダ販売店を開いたオーナー経営者は「以前から構えている他メーカーの店よりも売れている。投資したかいがあった」と話す。

 「期待されているのは20年後の売上高と利益」。水谷社長はこう話す。ホンダの二輪車の世界販売が1700万台にも達する原動力となったインドや東南アジアも30年前の進出時はごく小さな市場だった。地道に販売網を広げ確固たるブランドを築いたことが成功につながった。

 ホンダは二輪販売で世界最大手だ。ただ東南アジアでは市場が飽和しつつあり、新市場の開拓も重要だ。バングラデシュに加えてケニアでも同様の取り組みを進める。バングラデシュで成功すればアフリカや南米など新たな市場が広がる。

記:大澤 敏夫(2014-05-18)