「日本車が支え」の米国車両盗難事情

 車両盗難はニューヨーク市では、もはやたいした問題ではない。

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1990年に発生が報告された件数は14万7千件。単純にはじくと、市民の50人に1人が被害にあった計算だ。それが、2013年はたった7400件。1100人に1人が被害にあったことになる。なんと、約96%もの激減だ。

 一体、どうして?

 まず、この間に犯罪そのものが減った。全米でそうだし、とくにニューヨークでは大幅に減った。そして、車両盗難については、ペイするかどうかという経済法則の変化が、減少にさらに拍車をかけた。盗むのが難しくなり、もうけが減る一方で、捕まる確率は高くなった。だから、違うことをやるようになった、という訳だ。

 最も大きな要因は、技術的な進歩だ。2千年前後に登場した電子的な盗難防止システム・イモビライザー。車のキーにチップが付いており、このキーなしにエンジンを始動させることは、ほとんど不可能になった。

 「平均以上の専門知識を持つ連中でも、この技術を無効にするのは非常に難しい」とニューヨーク市警で車両犯罪部門を率いる警部ジョン・ボッラーはいう。その代わり、イモビライザーのない古い車が狙われるようになった。

 米国で最も多く盗まれている車種は、ホンダのアコード。自動車保険業界などの関連組織・全米保険犯罪局(NICB)によると、2013年には約5万4千台が全米で被害にあった。その84%は、1997年以前の型式だ。イモビライザー方式のアコードが売り出されたのは、1998年のモデルからだった。

 米国で2番目に多く盗まれているのは、ホンダのシビックだ。こちらも、2001年にイモビライザーが導入されてから、アコードと同じように盗難が減った。

 古い車の方が盗むのが簡単だし、まだ多くの古い車が走っている。でも、盗むには、明らかにマイナスの要素が一つある。あまり高くさばけないことだ。盗みの目的は、たいがいは解体して部品を売り飛ばすことだ。しかし、車が古くなれば、部品の値段も下がる。

 ニューヨークでは、古い車が盗まれると、解体業者に持ち込まれ、スクラップとしてわずか数百ドルで売られることが多い。しかも、ニューヨーク州法がこれを容易にしている。車の製造から8年以上たち、1250ドル以下の価値しかない場合は、その車を所有していることを示す権利証がなくても、スクラップにすることが許されるからだ。

 それでも、このさばき方だと、たいしたもうけにならない上に、足がつく可能性が高い。ニューヨーク市警のボッラーによると、市警は全米の自動車権利証についての情報システムを使って、より迅速に解体業者に売られた盗難車を特定することができるようになった。権利証なしで車をスクラップにする場合は、顔写真付きの身分証明書を示さねばならず、盗難車を売った人物を追跡して逮捕するのにかなり成功している。

 高額な盗難車が少なくなり、盗難車の部品を売る違法な店(チョップショップ)を持とうとする動機も薄れる――こうして車両盗難が減り、ニューヨーク市警の車両犯罪部門では85人の刑事とその管理者たちを、車両盗難を専門にする犯罪組織の摘発に振り向けることができた。こうした一味は、より新しい車に使える、コード化されたカギを造る技術を持ち合わせている。

 「われわれの最大の目的は、こいつらに組織犯罪に対する刑罰を適用することだ」とボッラーはいう。そうすれば、一般の車両盗難よりも重い量刑が下されることになる。

 同じような努力は、他の捜査当局もしており、全米で車両盗難事件にメスが入れられている、と前述のNICBの副局長ロジャー・モリスは指摘する。「専門性の高いプロの一味や違法なチョップショップなどに大打撃を与えているのは、すでにご覧の通りだ」

 確かに、ニューヨークでは車両盗難は激減した。しかし、全米では62%しか減っておらず、それほど劇的な減り方にはなっていない。

 とくに、カリフォルニア州が問題だ。発生率は米国一で、全米平均の2倍、ニューヨーク州の5倍にものぼる。NICBのまとめでは、全米で最も発生率が高い10都市圏のうち、九つが同州にあり、多くが西海岸添いを縦断する州間高速道路5号線からさほど遠くないところに所在している。

 モリスによると、同州の車両盗難にはメキシコの犯罪組織がからむことが多い。NICBは、米国のオートローン会社がメキシコから毎年、何千台もの盗難車を回収するのを助けているという。

 盗難車のいくつかは、さらに遠くにさばかれている。「多くが船で密輸される」とNICBの広報担当キャロル・カプラン。ロサンゼルス港だけで、毎年、数十件の盗難車の密輸が摘発されている。

 港での手入れでは、高級車が見つかることが多い(2012年には2010フェラーリ458イタリアも出てきた)。これに対して、同州で圧倒的に多いのは、回線をつないでエンジンをかけたりして盗むことができる古い車の被害だ。こちらはアジアに運ばれるよりは、メキシコに持ち込まれることの方が多い。いずれにしても、古い車がこうして道路から消えていくことで、車両盗難がさらに減る一因にもなる。

 それでも、米国で車両盗難が続く要因の一つは、古いホンダ車の信頼性の高さだろう。1990年代の半ばに造られた車は、もう盗むに値するものではなくなっていてよいはずだが、そうなってはいない

 「走り続けているから、盗まれ続けているのさ」とモリスはいった。(抄訳)

(JJosh Barro)

(C)2014 New York Times News Service(ニューヨーク・タイムズ・ニュースサービス)

asahi.com(2014-09-13)