高級感とスピード感でホンダ圧倒 軽自動車のデザイン

 国内の新車販売台数に占めるシェアは、すでに約4割に到達。安さと低燃費を武器に、軽自動車が好調な売れ行きを見せている。この注目分野において、デザインはどんな価値を創出しているのか。本記事では、日経デザイン誌が独自の調査[注1]によって、軽自動車のデザインに対する人気度や価値[注2]を数値化。デザインの有効性などを明らかにした。

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 軽自動車が売れている。2013年の普通・小型四輪乗用車の国内需要は前年比95.3%だったのに対し、軽四輪乗用車需要は同108.5%。自動車メーカー各社は2014年4月からの消費税率引き上げを前に、駆け込み需要の獲得を狙って新型車を投入した。

 今回は注目したのは、以下の3車種だ。軽自動車のシェア上位3社のうち、ダイハツ工業が2013年10月にフルモデルチェンジした「タント」、ホンダが2013年11月に発売した新型車「N-WGN」、そしてスズキが2014年1月に発売した新型車「ハスラー」である(図1)。


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 アンケート回答者の半数が「デザインで選ぶならこれ」と答えたのは、Cのホンダ「N-WGN」(図2左)。一般的な軽自動車の価格を100万円とすると、デザイン価値はプラス4.5万円という結果になった。Aのスズキ「ハスラー」を選んだのは28.7%、デザイン価値はプラス3.1万円。Bのダイハツ工業「タント」は21.3%、プラス2.8万円だった。


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[注1]2014年2月下旬、インターネットを介してアンケート調査を実施。消費者調査の有効回答数は男性155人、女性155人の合計310人。20代、30代、40代、50代、60代以上の各世代とも男女31人ずつ。調査協力はマクロミル、フォーデジット。
[注2]「デザインで選ぶならどれ?」という設問で選んだ製品が同ジャンルの一般的な製品の価格(一般価格)と比べて、いくらまでなら余分に払って購入するかを尋ね、複数の回答者の答えの平均額を算出。一般価格に上乗せして払ってもよいと考える金額をデザイン価値とした。さらに、一般価格に対するデザイン価値の割合(デザイン価値÷一般価格)を価格寄与度とした。

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■広さや安心感は選択理由にならず

 では3車種は、デザイン上のどんなポイントが評価されたのか、図3を見てみよう。


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 Cの印象で、ほかの車種に比べて抜きん出ているポイントが「速く走れそう」の66.5%、次いで「高級感がある」58.7%、「スタイルやフォルムがいい」55.8%と続く。スピード感や高級感が、軽自動車を選ぶ際の大きな評価ポイントになっていることがうかがえる。

 Aは「事故などの場合、安心・安全を感じる」で49.0%、Bは「室内が広そう」で69.7%と、多くの人がこれらのポイントについては高く評価しているものの、「買いたい」という評価にはあまりつながらなかった。軽自動車は車体が小さいため、クルマ選びに際しては室内の広さや安全性に大きな関心が払われそうだが、今回の調査の結果では、こうした点はあまり重視されなかった。

 次に、Cのデザインを最も強く支持した40代男性が、Cのどこを評価したのかを詳しく見てみよう(図4)。「スタイルやフォルムがいい」が61.3%(回答者全体では55.8%)、「先端的なイメージがある」は58.0%(同49.7%)と、これらのポイントでは全体を上回った。


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 一方、「室内が広そう」で16.1%(同17.1%)、「親しみを感じる」では19.4%(同35.8%)と全体を下回っている。40代男性にとっては、軽自動車の選択において、広さや親しみといった項目よりも、スタイルや走りのイメージの方がより強く作用したのだろう。

■「カスタム」の価値

 今回取り上げた3車種には、それぞれバリエーションがある。Aのハスラーは屋根の色を黒か白に変更したツートンカラーのモデルを選ぶことができる(一部グレードには設定なし)。1色のモデルが100万円と仮定した場合、ツートンカラーのモデルをいくらまでなら買いたいかを質問した(図5)。


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 その結果、回答者全体ではプラス6.9万円で、女性はプラス7.7万円と、男性のプラス6.0万円よりも1.7万円高い金額を支払う意志を見せた。ツートンカラーの中でも、特に屋根が白いモデルはおしゃれで華やいだ印象を与える。こうした点が女性のし好にマッチしたのだろう。実際の価格は、ツートンカラーのモデルは1色のモデルより4万2000円高い。回答者は実際の価格よりも高い価値をツートンカラーに感じている。

 Bのタントには、大型グリルやLED(発光ダイオード)ヘッドランプを採用し、エクステリアの質感を高めた「タント カスタム」というモデルがある。これについても同様に、スタンダードモデルが100万円とするといくらまでなら買うかを質問した(図6)。


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 その結果、回答者全体ではプラス9.8万円で、女性はプラス10.4万円と、男性のプラス9.2万円よりも1.2万円評価額が高い。

 一方、CのN-WGNにも、専用フロントグリルやバンパーなどを装備し、エクステリアの質感を高めた「N-WGN カスタム」というモデルがある(図7)。これについても同様に、スタンダードモデルが100万円とするといくらまでなら買うかを質問した。その結果、回答者全体ではプラス10.5万円で、男性はプラス11.4万円と、女性のプラス9.5万円よりも1.9万円高い評価額を付けた。


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 同じ「カスタム」でグレードアップの手法も近いが、Bはゴージャスにドレスアップ、Cは力強く押し出しの強い存在感を演出するなど、デザインの方向性の違いが見て取れる。実際の価格では、Bのカスタムはスタンダードより17万円、Cのカスタムはスタンダードより16万円から20.4万円高い。回答者の評価額は実際の価格の半分程度となった。
(ライター 笹田克彦)

nikkei.com(2014-09-08)