好調ホンダ、欧州が鬼門 スズキに抜かれシェア1%台

 長い低迷を抜け出し、回復を見せる欧州の自動車市場。各社が販売を伸ばすなか、ホンダの不振が目立っている。年間シェアで1%割れの懸念も出てきた。連結ベースでは今年4~6月期の純利益が前年同期比2割増となり、通期見通しも最高益水準に引き上げた同社。好業績下で欧州の死角が浮き彫りになってきた。シェア維持へ正念場の夏を迎えている。

 英国南部のスウィンドン。ホンダの欧州唯一の工場で、2本ある生産ラインのうち1つが操業を停止している。夏休みだからではない。工場全体の生産能力は年25万台だが、販売が伸びず、生産調整を余儀なくされているのだ。今春以降、1ラインでの操業が続く。

 同工場では昨年、従業員800人を削減したのに続き、今年も残りの約1割にあたる340人の削減を打ち出した。「少なくとも2年は回復が見込めない」。現地法人は厳しい見通しを示す。

 欧州自動車工業会がまとめた今年1~6月の欧州主要30カ国でのホンダの販売台数は7万2264台と、前年同期に比べ7.7%も減った。欧州景気の回復を受けて市場全体が6.2%増と伸びたのとは対照的だった。

 日産自動車は10%増、トヨタ自動車(レクサス含む)は6.8%増と上位との差は拡大。1年前には下にいたマツダとスズキにも抜かれ、日本車メーカーの5位に後退、大手では独り負けの様相だ。市場シェアは1.1%と直近ピークの2007年からほぼ半減。単月ベースで1%を割り込む月も出てきている。

 ホンダにとって欧州販売は日本の5分の1程度だが、業績への影響は小さくない。リーマン・ショックが起きた08年7~9月期から今年4~6月期までの24四半期のうち、欧州の営業損益が黒字だったのは8四半期のみ。この間の累計では500億円を超える赤字が積み上がっている。

 不振の原因は何か。

 ホンダの欧州事業のピークは07年から08年だった。販売台数や利益で過去最高を更新したが、リーマン・ショックで状況は一変。需要全体の冷え込みに加え、「ダウンサイジング」と呼ばれる小型車への需要シフトが打撃となった。

 現在は小型車「ジャズ(日本名フィット)」、中型車「シビック」、多目的スポーツ車(SUV)「CR―V」、上級車「アコード」の4車種とその派生車を販売する。小型車はリーマン後に急きょ投入したジャズだけ。燃費を改善した1600ccのディーゼルエンジン搭載車を投入したのは13年になってからと後手に回ってしまった。

 もともと欧州市場は時に1台30万~40万円もの値引き販売が横行し、ドイツなどの現地勢も利益を出しにくい厳しい競争環境だ。ホンダは赤字が続くだけに値引き合戦は不利な戦いとなる。

 ある関係者は「新興国に経営資源を振り向けた結果、欧州での対応が遅れた」と指摘する。

 日米欧に加え、中国など新興国に広がる市場。加えてディーゼル、ハイブリッド、燃料電池と技術革新は矢継ぎ早に続く。トヨタや独フォルクスワーゲンなどに規模で見劣りするホンダにとって戦線拡大の影響はより大きい。しわ寄せが欧州に出て、縮小均衡を余儀なくされている格好だ。

 ホンダの欧州事業は今後どうなるのか。

 業界では、新興国が台頭するなかで、欧州市場と距離を置くメーカーも出始めている。ダイハツ工業は13年に欧州での新車販売をやめた。実はホンダ社内でも議論が交わされている。現状では「欧州で戦わないブランドが、世界でアウディやBMWなどの欧州勢に勝てるのか」という意見が大勢だ。欧州でブランドを確立できなければ長期的に世界で勝ち残れないとの判断だ。

 15年にはメキシコ工場で生産する小型SUV「ヴェゼル」を欧州に投入。モータースポーツの盛んな欧州での旗艦車種である「シビックタイプR」も刷新する。目玉商品のない今年は踏ん張り所となる。

 この夏、ホンダはベルギーのサーキットに欧州各地のユーザー約200人を集め、走行会を開いた。参加者は一様に興奮した様子で、中にはホンダが広告で掲げる「パワー・オブ・ドリームズ」の文字を腕に記した一般男性も。かつて欧州を主な舞台とする自動車レースの最高峰、フォーミュラ・ワン(F1)を席巻したホンダ。熱心なファンは現地に今も多い。

 来年はF1にも再参入する。輝きを取り戻せるか。新興国だけではない。挑戦の場は欧州にある。(小谷洋司)

nikkei.com(2014-08-14)