車の生産受託 米で加速 GMなど利用、復活支える

 米国で自動車生産の姿が変わってきた。3万点もの部品をジャスト・イン・タイムで調達し、自社工場で一気に完成車に組み立てる「擦り合わせ」を強みとしてきた日本車メーカー。これに対し米自動車メーカーの間では、生産を外注する動きがある。担い手は車なら何でも造るという「カメレオン工場」。金融危機以降、急速にビジネスを拡大し、日本企業のものづくりを変える可能性も秘める。

 「へぇー、そんなビジネスがあるんだ」。7月上旬、米企業の売り込みを受けたある日本車メーカー幹部はつぶやいた。自動車生産なら、なんでもござれ。車の生産の一部を肩代わりし、なんなら車を1台丸ごと造ることもできると言う。

 アンドロイド・インダストリーズというその会社は、米デトロイト郊外オーバーンヒルズに本社を置く。米自動車大手3社を顧客に持ち、テキサス州の工場ではゼネラル・モーターズ(GM)が大型SUV(多目的スポーツ車)の生産工程の実に85%をアンドロイドに委託している。オハイオ州では実際にトラックやバスの生産をすべて請け負ったことがある。

 いわば「車のなんでも工場」。デトロイト近郊ウォレンにある、その工場に行ってみた。エンジン、タイヤ、サスペンション。車の主要パーツが所狭しと並ぶラインで組み立てられていく。通常ならそれぞれを専業の部品メーカーか、完成車メーカーが作るものだ。

 「どのメーカーのどの車、どの部分でも、同じやり方で作っているんですよ」。ディレクターのアンディ・シュミットさんはこう説明する。ここではGMとクライスラーの生産の一部を代替しているが、確かにどのラインも似ている。

 生産ラインを走るのは前後にオレンジ色のカバーをつけた台車。作るモノによって「台」の部分の形を変えたり、前後に伸ばしたり、あらゆる車に対応できる。生産台数の急な増減や車種の入れ替えにも即座に応じる。

 作業員の頭上からはビス留めなどに使う工具が伸びる。「締め付けの強さなどを自動でモニターして“ポカ・ヨケ”につなげているんです」。シュミットさんの口から、ミスを減らすという意味の日本語の「カイゼン用語」が飛び出した。従業員も2時間半ごとに担当を変えて、車のなんでも工場を支えるスキルを身につけさせる。

 アンドロイドは2008年の金融危機で米ビッグスリーが生産の外部委託を増やしたことを追い風に急成長している。この5年で工場数は12から20に拡大。10年には海外生産も始めた。

 「一度、外注のメリットを実感した顧客はなかなか離れないわ」。キャサリン・ニコルズ副社長は話す。実際、米3社は、危機後に車が飛ぶように売れるようになっても北米で工場を新設した例はない。金融危機で破綻したGMなどの急激な復活を陰で支えたのがアンドロイドなどの生産受託企業だったわけだ。

 実はアンドロイドはもともとは機械設備メーカーで、約30年前は三菱重工業とも提携していた。シュミットさんは「新規顧客に提案する際に自社で設備を造って要求に応えられる」と胸を張る。目下のターゲットは日本車メーカー。創業者のリチャード・ニアッツィ会長は「複数社と交渉しているが、来年には日本の1社と契約し(生産受託を)始められるだろう」と話す。日本企業に求められればどこにでも行く。「近い将来にアジアに工場を造ることになる」と見る。

 今や英語でも「カイゼン」として定着したモノ作り力で躍進した日本車。ここに食い込めば、世界にビジネスが開ける。米国発の自動車工場の変革者が「本家」に挑む。

nikkei.com(2014-08-05)