ホンダ、経営陣に笑顔なき最高益

 ホンダは7月29日、2015年3月期の連結純利益(米国会計基準)見通しを50億円上方修正した。新たな予想は前期比5%増の6000億円と7年ぶりの最高益更新(これまでは08年3月期の6000億3900万円)を射程にとらえた。しかし会見した経営陣に笑顔は見られない。上方修正の理由はもともと保守的すぎた為替前提を見直しただけで、本業が想定より上向いたわけではないからだ。それどころかエースの新型「フィット」のリコール問題がじわりと広がりそうな気配もある。まだまだ油断はできない。

 30日の株式市場でホンダ株は反発、前日比3%強上昇した。しかし「その勢いは長くは続かないのでは」(独立系ファンドマネジャー)との指摘が聞かれ、実際に31日はわずかながら反落で引けた。それもそのはず。上方修正の要因はよくみると本質的なモメンタムの強さからきたものではないからだ。為替想定レートを1ドル=100円から101円に見直すなど、想定レートをわずかに変更した結果、営業利益を100億円、純利益を50億円積み増したにすぎない。

 本業はというと、確かに悪いわけではない。増税影響が注目されたが、ふたを開ければ4~6月の国内新車販売は44%増。昨秋に新型「フィット」を投入した効果や軽自動車の好調さがきっちりと数字になって表れた。しかしあくまで「計画通り」(岩村哲夫副社長)であって想定よりいいわけではないのだ。当然、通期の四輪車販売計画も据え置き。逆に二輪車事業と汎用パワープロダクツ事業の販売台数はアジアや南米での苦戦を織り込み下方修正した。

 増税直後にもかかわらず4~6月期の営業利益が7%増となったことも株式市場では評価されているようだが、じつは15年1~3月期に計上を予定していた北米での排出権売却益150億円が4~6月期に前倒しで入ってきたというからくりもある。これを単純に差し引けば4~6月期の営業利益は微減益になっていたことになる。

 こう考えると確かに経営陣としても浮かれてはいられないだろう。さらに気になるのは北米だ。歴史的な低金利を追い風に北米自動車市場は好調を維持している。日本の自動車メーカーの4~6月期決算のトレンドは、増税の逆風が吹く国内の落ち込みを北米の好調でカバーして増益を確保するという日産自動車のようなパターンになるのがほぼ確実だ。しかしそんな北米でホンダは4~6月期に販売台数が3%減、所在地別営業利益も6%減った。本来、北米に最も強みを持つのはホンダのはずなのにだ。

 会社側が北米苦戦の理由としてあげたのは2つ。1つは北米向けフィットを生産するメキシコ新工場の立ち上げ局面にあたり「品質という観点から念には念を入れた生産を行ったためデリバリーが遅れた」(岩村副社長)。そしてもう1つが高級ブランド「アキュラ」の主力中型セダンとなる「TLX」の発売が遅れていることだ。遅れの要因は「新技術を盛り込んだため念入りな検証を行っているから」(同)という。

 この発言からうかがえるのは、ホンダが品質に非常にナーバスになっているということ。その背景にあるのが主力の新型フィットのリコール(回収・無償修理)問題だろう。昨秋の発売からまだ1年もたっていないのに、制御プログラムの問題などで既に4回もリコールするという異例の事態に陥っている。足元の販売状況は好調に見えるが販売店からは「お客さんからの苦情が激しくなっている」という悲鳴があがり、「技術のホンダ」の看板には徐々に傷がつき始めている。

 当然、この事態を伊東孝紳社長はじめ経営陣は重く見ており、新車投入に慎重にならざるを得なくなっているのかもしれない。フィットの連続リコールは国内販売の先行き懸念を抱かせるばかりか、「稼ぎ時に入った北米市場でのタマ不足にも連鎖し始めたように映る」(外資系証券アナリスト)。

 29日の記者会見でもフィットのリコールについて原因や課題を繰り返し問われたが「品質問題は最重要項目で再発防止に取り組んでいる。お客様の安全を優先して対応する」(岩村副社長)とあいまいな回答に終始し、社内でもドタバタが収束していないことを連想させた。

 部品の共通化やITなどソフト面の技術搭載が増え、自動車のリコール台数は増える傾向にあり、業績へのインパクトも大きくなりがちだ。7年ぶりの最高益を射程にとらえたホンダだが、その道のりはまだ平たんではないのかもしれない。(奥貴史)

nikkei.com(2014-08-01)