ホンダの12年ぶり原付き1種二輪車、性能十分も高価格
ホンダ「ダンク」

 ホンダは2月20日、エンジン排気量50cc以下の原動機付き自転車(原付き1種バイク)「ダンク」を発売した。ホンダが車体からエンジンまで新開発した原付きバイクは2002年のトゥデイ以来12年ぶり。すっきりとした外観に装備を充実させ上質感を演出、若者を主なターゲットに据える。

 50cc単気筒OHCエンジンは、アジアなどで人気の高い125ccや150ccなどで確立した同社の次世代スクーター用技術を使っている。始動に使うセルモーターと発電機能を兼ね備えた電子制御式のACGスターターを採用し、冷却効率の高いラジエーターをエンジン右ケース外側に一体化することで軽量、小型化した。燃費向上に役だつアイドリングストップは停車3秒後に作動するが、バッテリー電圧が低下している場合は機能を停止するように設定した。最高出力や最大トルクなど動力性能はホンダが現在販売している50ccバイクでは最高水準にしながら、燃費は30km定地走行で75.3km/L、国際基準に沿った走行モードで測定したWMTCモードでも56.6km/Lの高い水準を達成。スマートフォン(スマホ)の充電が可能なソケット、時計表示機能も備えた大型の速度メーター、ヘルメットが収まる23Lのシート下収納などを装備した。

 全6色で価格は21万4920円。ベトナム工場から輸入、販売する。販売目標は年間2万5000台。

■研究員の視点「性能は十分、価格は若者には厳しめか」

 街中に大型から原付きまで各種各様のバイクがあふれた全盛期の1980〜90年代を知る者には、昨今のバイクの存在感の小ささには隔世の感がある。二輪車市場はこの1〜2年で底入れした感はあるものの、かつてライダーだった中高年のリターン需要に頼る部分が小さくない。若者や主婦らを主ターゲットとしてきた原付き1種は、二輪車のおよそ半分を占めるが、電動アシスト付き自転車や高級自転車、性能が大幅に向上した軽自動車のはざまに挟まり、減少傾向に歯止めがきかない。原付き1種バイクは、時速30km規制や二段階右折規制など50cc超のバイクに比べて不利な条件も多いが、普通自動車免許で運転できるだけに入門車として、どうにか活性化したい分野だ。

 その役割を担わせたいダンクは、スムーズに交通の流れに乗れる動力性能を持つ。100ccクラスのスクーターには及ばないとはいえ、50ccクラスとしては十分すぎる加速性能があり何の不足感、不安も感じさせない。坂道でも快適に走行できる。アイドリングストップは停止・再始動の設定が絶妙で、4.5Lのタンク容量と合わせ満タンで250km程度は走れる計算だ。スマホの充電機能は若者にはありがたい装備。12年ぶりの新車だけに機能・装備面では、原付き1種として最上位に位置づけられるのも当然といえる。ただ、価格も20万円を超える。ヤマハ発動機の「ジョグ」、スズキの「アドレスV50」など同じスタイルの売れ筋スクーターが15万円台で買えることを考えると、若者には少しハードルが高くなる。

■評価委員のコメント「ホンダの意気込み並大抵のものでない」「ありそうでなかった造形」

 「デザインはシンプルかつ洗練されているとの印象。500mLの紙パックが入るサイズのインナーラックや大型フック、12Vのアクセサリーソケットで携帯の充電ができ非常に使い勝手が良い。デザイン、性能、使い勝手と高レベルでバランスがとれているが、その分価格も高い。ズーマーやエイプなどの趣味寄りモデルは別であるが、ダンクのような原付きは日常の足であり、20万円を超える本体価格が販売に対してネックとなる可能性が高い」(同業他社委員)

「50ccバイクの需要は年々減少しているが、学生などの若年層の手軽な足という狙いなら、支持はもらえそうだ。特にデザインは女性にも受け入れられるだろう。4輪で人気を博したダンクというネーミングを起用したのも好感をもって迎えられるはずだ。ネックとなるとすれば、約20万円という価格設定ではないか」(流通委員)

「力強いダッシュと速度の伸びの良さは間違いなくクラストップ。アイドリングストップ機構が備わる静粛の水冷エンジンなど125ccクラス並みのぜいたくかつ上質なメカニズムも特筆ものだ。サスペンションやブレーキを含め、しっかりとした車体全体の完成度も高い。世界規模で見ると今や小さな日本市場に、完全新設計となる日本専用モデルをあえて投入するあたり、ホンダの意気込みは並大抵のものではない」(学識委員)

「マットな質感に角ばったデザインは、今の時代にありそうでなかった造形。一方で『原チャリ』と呼ぶにはハイスペックすぎるほどの装備。新型エンジン、充電ソケット、フロントディスクブレーキ、LEDテールランプ、時計付きのスピードメーターなどで、ターゲットの高校生や若い層に必要な装備だ。ただ、無難なデザインを好む人には、このデザインは過激すぎる。装備・機能面の充実ぶりを前面に打ち出すことが大事だと思われる」(学識委員)

【製品の仕様】

【ベンチマーク商品なし】

原付き1種バイクで新型エンジン搭載の日本専用モデルは近年、他社から発売されていないため、今回はベンチマーク商品を設定しなかった。

nikkei.com(2014-04-14)