インドで100万円車台頭 「ナノ」失速、ホンダなど躍進

 インドの自動車市場で低価格車に代わり100万円前後の車が売れ始めている。購買力を持ち、性能やデザイン性にこだわる消費者が増加。ホンダ「アメイズ」などセダンや多目的スポーツ車(SUV)が人気を集める。一方、タタ自動車「ナノ」など製造コストを抑えたハッチバック車は失速した。メーカー別でも従来の3強の構図が崩れ、新しい勢力が台頭しつつある。

 「車の王道はセダン。セダンが欲しい」。インドの最大商都ムンバイに住む30代の男性起業家ロイット・シンさんは熱を込めて話す。5年前に買ったハッチバック車の買い替えを検討中だ。ホンダのアメイズなどが有力な候補。金融機関に勤めていたが、2年前に起業。会社の経営は軌道に乗り始めた。同国の典型的な「新興中間層」だ。

 インドといえばコストを切り詰めたハッチバック車が代表的だったが、これは大都市では過去の姿になりつつある。デリーやムンバイではセダンやSUVが急速に増えた。躍進著しいのがホンダ。景気減速の影響で乗用車市場は2013年4月〜14年2月の販売台数は約226万台で前年同期比6%減と低調だったが、ホンダは83%増だった。

 「厳しい市況のなか販売を伸ばした。13年のインドは百点の出来だ」。辛口で知られるホンダの伊東孝紳社長は2月に訪印した際の記者会見で珍しく褒め言葉を口にした。それもそのはず。北部ウッタルプラデシュ州の工場は業界では異例の1日3交代制度を導入し深夜も稼働。通常操業では受注に生産が追いつかない状況が続く。

■中間層取り込む

 ホンダ躍進の理由は中間層の取り込みに成功したことだ。インドでは「車購入費の上限は年収1年分」というのが目安。アメイズの中心価格である60万ルピー(約100万円)前後というのは中間層の年収と重なる。もともとホンダはインドで二輪車に強く、ブランド力も高い。今回はこれまでなかった現地で人気のディーゼルエンジン車を用意したほか、広い室内を確保するなどで中間層のニーズをくみ取った。

 アメイズは月別販売ランキングで5位をうかがうほどの人気となった。ほかにも仏ルノー「ダスター」と米フォード・モーター「エコスポーツ」はともにSUVで、最低価格帯は60万〜70万ルピー台ながらヒットしている。

 車が一般に普及するモータリゼーションが起きるのは一般に1人当たり国内総生産(GDP)が3000ドルを超えてからといわれる。インドは1500ドル程度だが、主戦場である大都市については、3000ドルを超えたという試算がある。

 2月にデリー郊外で開かれた自動車ショー「オートエキスポ」で注目を集めたのがトヨタ自動車の新型SUV「エティオスクロス」。黒を基調にまとめた内装の高い質感が特徴だ。10年末に発売したセダン「エティオス」はコストを徹底して抑えた新興国戦略車だったが、販売は低調だった。「現地の人々が求める質感を満たしていなかった」(トヨタ幹部)と反省し、改良を加えた。

■攻略の常識覆る

 インド攻略のカギは「コスト重視のクルマづくり」というのが常識だったが、流れは変わった。タタ自動車が09年に投入した超低価格車「ナノ」も急減速。13年4月〜14年1月の販売は前年同期比7割減だった。

 インド乗用車市場ではスズキ子会社マルチ・スズキが4割超の圧倒的な販売シェアを握り、2位の韓国・現代自動車が15%のシェア。タタ自は4位に後退し、SUVが主力の現地メーカー、マヒンドラ・アンド・マヒンドラ(M&M)が3位に食い込んだ。

 ただ、M&Mと、5〜6位のトヨタやホンダの販売台数の差は年10万台強と大きくはない。モータリゼーションが本格化し始めたインドでは、「車に対する消費者の関心が高い分、ヒット車が出れば一気に販売が伸びる」(日系メーカー幹部)。今後の開発次第では中位メーカーでも上位に進出する目がみえてくる。

nikkei.com(2014-03-11)