銀盤の華、「億」の費用

「習い事」から競技へ

 フィギュアスケートは、冬季五輪の花形競技。本格的に取り組むとなると、お金がかかるイメージが強い。五輪を目指すには、一体いくらかかるのか。5歳で始め、20歳で五輪出場――という想定で関係者への取材を基に試算してみた。

 趣味で楽しむ程度なら、普通の習い事と同じ感覚で続けられる。靴はブレード(刃)とセットで約1万円から。あとは帽子と手袋があればOK。初心者向けスケート教室の月謝は、週1回で約5000〜8000円程度だ。

 ところが、競技選手になるには、クラブに登録して、日本スケート連盟のバッジテストを受けなければならない。靴も、ジャンプやスピンに耐えるものが必要で、値段は1足約12万円からと一気にはね上がる。成長期の小中学生だったら年に2足は用意したい。

 上達に欠かせない個人レッスン代(30分2500〜5000円)やリンクの貸し切り代(1時間2万〜5万円)に加え、遠征費や衣装代、振り付け代(1曲20万〜250万円)もかさむ。コーチの交通費や宿泊費も選手が出す。日本スケート連盟の強化選手に指定されれば、選手本人とコーチ1人分の遠征費などが支給されるが、トレーナーや親が付き添う場合は自己負担だ。

衣装代「100万近く」も

 道具や衣装の値段はピンからキリまで。例えば衣装は、既製品なら数万円で済むが、有名デザイナーに頼むと100万円近くかかることも。負担を減らすため、トリノ五輪女子金メダリストの荒川静香さんはかつて、母親が手作りした衣装を着ていた。浅田真央(中京大)は、アルベールビル五輪女子銀メダリストで、クラブの先輩だった伊藤みどりさんのお下がりを着て試合に出たこともある。

 もちろん、すべてが自己負担ではない。実績を積んでいけば、日本オリンピック委員会(JOC)や連盟の強化費、試合の賞金、スポンサーの支援などが受けられるようになる。最近は、中京大や関大などの大学がリンクを所有し、練習場の使用料の負担は軽くなった。それでも、経済的な理由で競技を続けられなくなり、卒業と同時に引退する選手も多い。伊藤さんや高橋大輔(関大大学院)のように、有望選手をコーチが自宅に引き取り、面倒を見るケースもある。

 ざっと見積もって、16年間の総額は1億円超。スポンサーがつくような選手は、浅田や高橋ら一握り。アルバイトをしながら競技を続ける選手もいる。華やかに見える世界だが、多くの人々の支えがあってこそ、選手は氷上で輝けるのだ。

資金、毎年「ダメかも」…村主、支援募り現役こだわる

 2度の五輪に出場し、今もカナダを拠点に競技を続ける村主すぐり章枝ふみえ(33)(Kappa)に、トップ選手の台所事情と本音を聞いた。

 村主は以前、記者会見を開き、1年間の活動費が約2000万円かかると支援を訴えたことがあった。内訳は、リンクの貸し切り代やレッスン代、衣装代、航空運賃など多岐にわたる。

 村主が「譲れない費目」として挙げるのは、靴の調整代だ。「メーカーから提供される選手もいるけれど、そのままでは使えない。エッジや形状など、足にフィットさせる調整に、どの選手も苦労する」。靴やエッジの仕上がりは演技の生命線だ。村主は3年ほど前、エッジの研磨機(米国製)を日本にいる職人と約30万円で共同購入し、日本でも繊細な調整をできるようにした。

 負担感が大きいのは、海外渡航費。「主催者側から支給される大会もあるけれど、国際大会となるとコーチやマッサージ師、振り付けの先生の渡航費や日当などを選手が負担する。レベルが上がるとチームの人数も増える」と説明する。

 村主は近年、支援企業を募りながら現役を続けてきた。「毎年、資金面で『もう駄目かも』っていう波が来る。それでも多くのサポートで、何とかつながっている」と笑いながら、「今はフィギュアが『見るスポーツ』になっている。皆さんに『(自分も)やってみよう』と思ってもらえるように活動したい」と話す。リンクなどの環境整備には「何かのきっかけが必要。五輪がキーになる」と、日本選手団の活躍を願っている。

読売新聞(2014-02-15)