「日本の自動車メーカー」が復活したこれだけの理由

 トヨタ自動車の2014年3月期第2四半期(13年4−9月)の連結決算は、営業利益が前年同期比81%増の1兆2554億円となった。販売台数は前年同期比より4万8000台少ない446万8000台にとどまったが、営業利益は上半期としては過去2番目の高水準だ。10年に北米でアクセルペダル の不具合など大量のリコールを出し、11年3月の東日本大震災の影響で製品供給に躓き、世界トップの座からずり落ちたトヨタの着実な復活を印象づけた。決算内容の評価は分かれる。利益を重くみれば劇的回復といえるが、販売台数を重視すると横ばい状態だ。世界トップの座を争う最大のライバルである独フォルクスワーゲン(VW)は13年7−9月決算では営業利益が19.9%増、販売台数が1.5%増となっており、利益の伸びでトヨタ、販売台数でフォルクスワーゲンに軍配があがる。  では、 日本メーカー全体でみるとどうか?

 同じ今年4−9月期の決算では、ホンダは営業利益が29%増の3564億円、販売台数が4%増の172万7000台となり、ともにプラス。対照的に日産自動車は、上期の営業利益が2647億円と7.8%の減益、販売台数は243万9000台と1.5%減となった。その他の中堅どころは劇的な改善だ。営業利益でみると、マツダが740億円と6.43 倍、富士重工業も1507億円と3.48 倍、三菱自動車が508億円と65%増、スズキが903億円の36.5%増にそれぞれ急増した。日本の乗用車メーカー8社を見渡せば、日産とダイハツ以外は営業利益が急伸し、日本の自動車産業に再び日が昇った印象がある。

構造的な大変化

 復活の要因を追えば、まずは中国と円安になるだろう。12年度は世界最大の自動車市場である中国で反日デモ、日本製品不買の影響を受け、各社2ケタの販売減に苦しんだ。今年はその反動増で、中国では日産を除けば各社とも大きなプラスに転じた。それ以上に利益面でプラスの効果が大きかったのは、アベノミクスによる円安の追い風だ。輸出採算が改善したうえ、海外現地法人の利益が円建てで大きく膨れあがり、連結決算の利益を押し上げた。

 こう言ってしまえば、足下の日本の自動車復活は外部環境の変化で説明がついてしまいそうだが、実はそれだけではない。これから10年、20年の世界の自動車業界を日本メーカーが先導していける構造的な大変化が見え始めているからだ。

 まず大きな変化はパワートレイン(動力系)に起きている。言うまでもなく、1997年のトヨタのハイブリッド車(HV)発売から始まり、水素から電力をつくりモーターで駆動する燃料電池車、バッテリーとモーターに減速時の回生エネルギーシステムを組み込んだ電気自動車(EV)、劇的に燃費を向上させたガソリンエンジンである。そのすべてをリードしているのは日本メーカーである。フォルクスワーゲンなど欧州メーカーは、ディーゼルエンジンとエンジン出力の縮小を過給機(ターボ)で補うダウンサイジングで、パワートレイン革命を乗り切ろうとしている。米国メーカーはゼネラルモーターズ(GM)が政府からの支援金を全額返済するなど復活を印象づけているが、技術的な新機軸は皆無だ。米国のシェールガス革命に伴う天然ガス価格の低下を利用しようと、天然ガス車(NGV)を売り出し始めたが、広く普及するものではない。EVではテスラが急成長し、「自動車業界のアップル」とも呼ばれているが、ハイエンド商品で勝負する「EVのポルシェ」のような存在にすぎない。

途上国経済の将来にも影響

 世界の自動車のパワートレインの主軸は、HVはトヨタとホンダ、EVは日産、低燃費エンジンはマツダなど日本勢が握る。欧州勢は強敵だが、実質的にはVW、ダイムラー、BMWの独3社のみが技術を握るものの、HV、EV、燃料電池車では「第2集団」にすぎない。

 それだけではない。安全運転のための運転支援システムは、富士重工が対象物を感知して自動停止する「アイサイト」システムを世界に先駆けて開発した。それを契機にハンドル操作や発進、停止も車が独自の判断で行なう自動運転システムの開発が日本メーカーを中心に進み始めた。

 パワートレインの技術進化がもたらすのは、途上国への自動車の普及だ。アジア、アフリカなどの途上国の大都市は今、交通渋滞に悩むほど自動車が増えたが、高いガソリン価格は車所有者にとっては大きな悩みであり、石油輸入の増大は貿易収支を悪化させ、各国の経済を不安定化させる。自動車の燃費の改善はミクロ的な問題にとどまらず、途上国経済の将来にもかかわる。そこにHV、EVなどが入ることは大きな意味を持つが、現状のHV、EVは価格が高すぎて途上国での普及は限られる。トヨタ、ホンダは来年以降、中国の合弁相手とハイブリッド車の開発、生産を始めると相次いで発表した。狙いは、複雑なハイブリッドシステムを新興国向けに簡素化し、低価格化することにある。中国市場でその突破口をこじ開けられれば、日本メーカーが途上国にHVを売り込めるチャンスが大きく広がる。

 また、 自動運転など運転支援システムは、高齢化社会の輸送を支えるカギとなる。高齢になっても買い物や通院などで自動車を運転せざるを得ない人は世界に多い。しかし、高齢者の運転技量や注意力は、若い時に比べれば低下しているのは事実だ。高齢者が安全、安心で乗れる、運転できる車の開発は、高齢化の進む日本など先進国はもちろん中国などアジアでも大きな課題となる。高齢者を意識した運転支援システムは大きな市場になる可能性を秘めており、そこでも日本メーカーは世界をリードしているのだ。

日本メーカーのリベンジ

 過去5年間をみれば、世界の自動車の成長市場は中国やインド、ASEAN(東南アジア諸国連合)、アフリカなどに移り、20世紀の自動車を支配した米欧は、市場でも生産拠点でも中国に大きく引き離された。逆に 新興国市場でシェアを獲得し、メーカーとして成長したのが、韓国の現代自動車や奇瑞汽車、吉利汽車など一部の中国メーカーだった。

 しかし、世界市場のパイが急拡大するなかで、日本メーカーは先進国市場での存在感は大きかったものの、低価格がポイントとなる新興国市場では存在感を必ずしも発揮できていなかった。日本メーカーは機能や品質面での妥協が苦手で、高価格体質から抜け出せなかったからだ。だが、ハイブリッド車の中国での開発、生産のような技術移転と現地開発という新戦略は、日本メーカーの欠点を薄める可能性がある。

 一方、日本車キラーで急成長した現代自動車は、2012年11月に発覚し、今も尾を引く米国での燃費偽装問題、雨漏りなど欠陥車の大量発生で、ブランド力が急激にあせている。自動車の世界に何の技術的進化ももたらしたことのないメーカーの技術的な底の浅さが露見しつつある。インドメーカーではタタモーターズが超低価格車「ナノ」で世界の関心を集め、インドだけでなく、欧州でも発売するとしていたものの、やはり技術的な壁にぶつかっている。中国は官民挙げて電気自動車に力を入れ、リチウムイオン電池メーカーから自動車に参入した比亜迪(BYD)が「EVで世界のフロントランナーになる」と息巻いてみたものの、中国市場ですらまともに通用しないEVを出しているにすぎない。

 日本の自動車メーカーは、研究開発やモノづくり革新に力を入れすぎたことで、コスト競争力や新興国への投資、戦略の具体化スピードなどで劣ったようにみえる場面が数年前にはあった。だが、自動車に研究開発力がモノを言うステージが再びやってきたことで、本領を発揮しつつある。日本の自動車の幾度目かの黄金期が到来しつつあり、それは単にトヨタ1社だけではなく、中堅メーカーのマツダ、富士重工、さらに軽自動車という独特のジャンルで強い開発力を磨いたスズキ、ダイハツなども同じだ。日本の自動車メーカーのリベンジはこれからだ。
執筆者:新田賢吾

fsight.jp(2013-12-17)