ホンダ、新型フィットで下期業績加速

 ホンダが9月6日に発売した主力小型車「フィット」の3代目の売れ行きがエンジン全開、いや、7割がモーターとエンジンの2つの動力源を持つハイブリッド(HV)タイプなので「モーター全開」で、快走している。10月6日現在、受注は6万2000台超と月間販売目標の1万5000台を大きく上回るスタートダッシュ。武器は「一番にこだわった」(伊東孝紳社長)という世界最高燃費だ。新型「フィットHV」の燃費は36.4キロメートルとトヨタ自動の主力HV「アクア」(35.4キロメートル)を上回る。一方、価格はアクアより数万円安い163万5000円(最低価格)に設定、勝負をかけた。

 9月5日のお披露目記者会見で伊東社長はホッとした表情をみせた。「社長になってからナンバーワンがなかったからね」。やはり「世界一」のインパクトは抜群。フィット発売当初の受注状況としては初代、2代目を上回り、早くも生産が追い付かない状態。「納車は来年になってしまいます」――購入客に頭を下げる販売店が続出している。

 フィットの滑り出しは、株式市場でも注目の的だった。「最高のスタートだ」ゴールドマン・サックス証券の湯沢康太マネージング・ディレクターは受注状況を確認後、カバーしている自動車業界の中で「トップ推奨」の継続を決めた。もちろん、「初代、2代目と実績があるモデルなのでヒットの可能性は高い」(大手生命保険のファンドマネジャー)というのが、市場の共通認識だったが、仮に期待はずれに終われば、反動の失望も大きい。

 特に、今期は自動車大手の中でホンダの出遅れ感が強かっただけにフィットの使命は重大だった。2013年4〜6月期の連結営業利益は1849億円と前年同期比5%の小幅増。新車で相次ぎヒットを飛ばすマツダや、リーマン・ショック前の利益水準が視野に入るトヨタに比べて伸び率で見劣りするだけでなく、円安の追い風が見込める、完成車7社の中で見渡しても最低の増益率だ。

 原因は、7月から生産を始めた寄居工場(埼玉県寄居町)の立ち上げなどの設備投資による減価償却負担の増加だ。それだけに新型フィットの生産が軌道に乗れば会社全体の利益率改善につながる。現在、寄居工場と鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)で生産しているが、会社は早くも能力増強を検討しているもよう。ガソリン高の追い風が吹く上、来春からの消費増税を前に、3月末までの納車を求める駆け込み需要が予測される。

 もともと会社首脳は、期初から口をそろえて「今期は後半勝負」と言い続けていた。フィットに続き、今秋には5年ぶりの全面改良となるミニバン「オデッセイ」など旗艦車種が相次ぎ衣替えする。通期では連結営業利益は7800億円と前期比43%増まで伸ばしてくる計画だ。市場予想(QUICKコンセンサス)では、同55%増の8443億円まで切り上がっている。会社予想がやや保守的という見立てに加え、9月以降のフィットのヒットが織り込まれ始めている。

 7日の株価は3695円で予想PER(株価収益率)は約11倍と、トヨタ(14倍)、富士重工業(17倍)と比べて割高感はない。新型フィット効果で、株価も「モーター全開」とまではいかなくても、後半加速する展開はありそうだ。(奥貴史)

nikkei.com(2013-10-08)