ホンダ・フィット ハイブリッド新ツートップ時代到来

 2013年9月6日に発売された、3代目となるホンダの新型コンパクトカー「フィット」と「フィットハイブリッド」。プロトタイプでもすでにお伝えした通り、特にフィットハイブリッドは、JC08モード36.4km/Lという国内最高の低燃費をうたう。その実力はいかなるものか。小沢コージが燃費テストを敢行した。

【コンセプト】実燃費24km/Lの衝撃

 いやはや恐ろしいクルマを作っちゃいましたね、ホンダさん。

 すでにプロトタイプをレポート済みの驚異の新燃費チャンピオン、ホンダ「フィットハイブリッド」。フィット・シリーズ全体ではさらに2つのガソリンエンジンと、CVT、6MTの2つのギアボックスを新作しており、非常に力が入っている。ボディーももちろん完全新作だ。

 だが、やはり最大の売りは受注の7割以上を占めるフィットハイブリッドであり、トヨタ「アクア」超えを果たしたJC08モード36.4km/Lの燃費性能だろう。発売後10日間の全体受注は4万台をオーバー。これは近年ではアクアに続く数字でまさに爆発的。

 さっそくオザワは、横浜で試乗会が行われるやいなや、オフィスに近い東京大田区の池上本門寺までの燃費テストを敢行した。

 結論から言うとオートエアコンを25℃に設定し、一番エコドライブができる「ECON」モードをオンにし、横浜みなとみらいから下道を多少走って「新山下」口から首都高の湾岸線に入り「羽田空港」まで行った約25kmのメーター計測燃費が24.0km/L!!

 帰りは国道1号線を使って時速60kmぐらいでストップ&ゴーをタラタラ繰り返して、横浜まで戻った往復52.6km燃費が20.5km/L!!

 帰路は焦って区間燃費を計り忘れてしまったが、撮影で停車していた時間を除いて推定すると、18〜19km/Lにはなったはず。もちろん燃費は測り方や運転方法でかなり変わるので一概には言えないが、これは現燃費チャンピオンたるアクアに負けず劣らずの実燃費だ。

 ほかにも軽自動車のスズキ「アルト エコ」やダイハツ「ミラ イース」など強力ライバルがひしめくニューカー省燃費バトル。だが大人5人が乗れる白ナンバーエコカーとしては、アクアと並んでフィットハイブリッドが筆頭であり、ついにここにハイブリッド2強の“ツートップ”がそろったと言っていい。

ストロングハイブリッドに近いレベルに

 今までも確かにホンダは「インサイト」や旧型フィットハイブリッドなどでハイブリッドカーを作っていた。だが旧システムの「HONDA IMA(Honda Integrated Motor Assist System)」は、モーター単独の出力が10kWしかなく、トヨタが自らを「ストロングハイブリッド」と呼ぶのに対し、一般に「マイルドハイブリッド」と呼ばれ、ある意味“格下”扱いされていた。実際IMAは完全EV走行ができなかったし、乗っても体感できるEV風味は薄かったのだ。

 だが、今回の新システム「i-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)」は違う。まずモーター出力が倍の22kWとなっただけでなく、個別の増速ギアまで付き、相当EV度を高めた。実際、バッテリー充電状態にもよるが、アクセルをゆっくり踏めば時速40km程度までは完全にモーターだけでEV走行ができ、最長約4kmは走れる。

 さらに走行配分だ。比率は明らかになっていないが、走行バッテリーに今までのニッケル水素ではなく、リチウムイオンタイプを利用したこともあって、蓄電容量が約1.5倍にアップ。結果、全走行中のEV走行、ハイブリッド走行、エンジン走行の比率が、ほぼトヨタ・アクアと同程度になったという。

 仕組みそのものは昔と同じ1モーター式ハイブリッドではあるが、実質的には2モーター式のトヨタのストロングハイブリッドに比肩しうる性能を持ったのだ。

【インプレッション】完全バランス型のトヨタ方式

 しかも燃費性能だけじゃない。実際の走行フィーリングがトヨタ方式とはかなり違う。トヨタの「THS II(TOYOTA Hybrid System II)」は、発電用モーターと走行用モーターを別個に備えた2モーター式で、そこに遊星歯車を介してエンジンがつながっている。

 これはこれですごいシステムだが、完全に密に3つの動力源がつながっていて、非常に効率重視の統合制御が行われるため、実際に走ってみると「もわ〜っと」加速する。

 正直、エンジンがどれだけ回り、モーターがどれだけ力を発揮しているかが実感しにくい。それはそれで不思議な感覚であり、不肖オザワは「エンジンがかかると、サーフィンで後ろから押されているように加速する」と昔表現し、それはそれで楽しいのだが、特有のブラックボックス感は強い。

力がクラッチで重なり合うホンダ新方式

 だが、ホンダの新しいi-DCD方式はかなり違う。このシステムはプロトタイプのときにも書いたが、基本はクラッチを奇数側ギアと偶数側ギアにそれぞれ持つデュアルクラッチギアボックス。具体的には1、3、5、7速の奇数側軸にモーターが、反対側にエンジンがつながり、それぞれ必要に応じて加速したり、クラッチがつながったりする。ちなみにエンジンは偶数側を介して2、4、6速のレシオでパワーを伝達することもできる。そして実際のEV走行時は、レシオ的に5速、7速は使われない。

 要するに必要最低限のギアとクラッチを使ってパワーの断続が行われるので、エネルギー伝達効率が高く、ダイレクトなのだ。実際、担当エンジニアである四輪R&Dセンター 池上武史氏曰く

 「モーター、エンジンそれぞれ単独の伝達効率は90%以上。これはMT並みです」とか。

 これが省燃費だけでなく、生々しく走る感覚にもつながるのだ

 走ってみると、まず発進直後はモーター単独でスーッと進む。そこまではアクアやプリウスとほぼ同じだが、普通にアクセルを踏んでいると時速10〜20kmまでにエンジンが始動し、明らかにグン! とクルマが進む。そう、モーター側クラッチに加え、エンジン側クラッチも同時につながったのだ。

 そのときのペダルの踏み加減や路面状況にもよるが、そこで一瞬エンジンパワーに余裕があったりすると、モーターが発電側に作用し、充電を始めたりする。

 しかしそのままアクセルを踏み込むと、今度はモーターに電力が回り、加速し始め、エンジンとモーターが混然一体となって猛加速が始まる。そしてこれらはすべてクラッチを介すか、クラッチがつながりっぱなしで加速したり減速したりするので、非常にダイレクト。決して妙な振動があるわけではないが、遊星歯車を使ったトヨタ方式にはない生々しさがある。

 加えて、モーターとエンジンの作動具合が、メーターパネルの右に図案化して表示され、回生充電している場合は緑、加速している場合は青となり、状況が非常に分かりやすい。まずはモーター単独でスタートし、途中エンジンが加わって、やがて協調制御されるのが視覚を通じても伝わってくるのだ。

 さらにそのまま高速に入り、スピードアップしていくと、エンジン側のギアが1速から2速、3速、4速とシフトアップしているのもわかるし、エンジン回転のアップダウン音も聞こえてくる。

 この感覚は、今までのAT車にも近く、それでいて全体的にモーターによる後押し感もある。この不思議で、ナチュラルな加速はいままでのハイブリッド車では味わったことがないものだ。

 しかもちょっとペダルを緩めると回生、ちょっと踏み込むと加速という、この切り替えが非常に早くてストレスがない。「ああ、無駄遣いしてないね〜」ってな感じでニッポン人の倹約心を上手にくすぐる。

世界最高レベルの超高効率エンジン

 さらにこのハイブリッド用アトキンソンサイクル直噴1.5L直4i-VTECも完全に新設計されており、できが良い。

 最高出力は110psと普通だが、最大トルクの13.7kgmを5000rpmで発揮し、同レベルのトルクを3000rpm当たりでも生み出す。

 ウワサによればエンジン単体の効率だけでも40%近く、まさしく世界最高レベルの超高効率パワーユニットなのだ。

走りはフォルクスワーゲン「ポロ」がターゲット

 ある意味予想外とも言えたのがハンドリングのすばらしさだ。エンジンだけでなく、ボディーのプラットフォームやフロントがストラット、リアがH型トーションビームのサスペンションも完全に新設計され、旧型の硬すぎた走りのテイストは一変した。

 特にステアリングフィールだ。真っ直ぐ走っているときの感覚からして今までとは違い、軽い中でもナチュラルに路面の状況を良く伝える。

 さらに切り込んだときのフィーリングだ。大容量化した電動パワステの恩恵もあるようだが、なめらかかつほどよい手応えがある。もちろんシャープさやダイレクトさも旧型並みにあるが、それ以上にソフトで上質。

 聞けば、世界の上質FFコンパクトの代名詞ともいえるフォルクスワーゲン「ポロ」を相当研究したもよう。実際、これまで以上にフィットを日本だけでなく、欧米に売るためには、ドイツ車に負けない走りの味が求められる。あえて新旧の違いをたとえるなら、木綿豆腐から絹ごし豆腐に替えたくらいのインパクトがあると言ってもいい。

 乗り心地も昔みたいなヒョコヒョコしたところはなくなり、別物のように良くなった。とはいえ池上本門寺の回りのデコボコ道では、それなりのゴツゴツ感があり、ここは改善の余地があるだろう。

サイドメニューまで一線級

 新型フィットで驚いたのはパワートレインや乗り心地だけじゃない。そのほか装備類の高性能ぶりにも驚かされた。

 まずはハイブリッドに搭載されている電動エアコンだ。これはかなりエネルギー効率がいいようで、燃費を計った日は夏の日射しが残り、外気は30度近く、走り始めからオートエアコンがガンガン効き始めたのだが、メーター計測燃費はどんどん下がっていくのだ。

 街中で当初7km/Lぐらいだったのが、あれよあれよと10km/L台を超え、15km/Lに達する。

 さらに回生ブレーキだ。これまた低燃費のためには見逃せない性能で、いかに今まで捨てていた減速エネルギーを電気に変えるかの勝負なのだが、今回フィットハイブリッドは完全新作の電動サーボブレーキを開発。

 これがいわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式で、ブレーキペダルとブレーキ用マスターシリンダーがメカ的につながっておらず、結果、回生エネルギーが今までより約8%向上したという。

 実際のフィーリングも回生ブレーキ特有の引きずり感というか、重みはあるのだが、踏み始めからガッチリ効き、慣れれば普通にコントロールできる。

 プロトタイプ試乗の時に、前述池上氏が「パワートレインだけでなく、いろんなところで最高のものをいただきました」と言っていたがこういうことなのだ。

 超高効率エンジンを含む新型パワートレインだけでなく、電動ブレーキ、電動エアコン、電動ウォーターポンプなど最高のバイプレーヤーを集めることによりこの超低燃費と高性能を達成できたのだ。

 ちなみにもちろん公道で試せてはないが、この3代目モデルから、フィットも遂に「ぶつからない機能」である衝突被害軽減ブレーキの「シティブレーキアクティブシステム」を最廉価モデルと除く全グレードにオプション設定できるようになった。

 まさしく全方位からスキのない新型フィットなのである。

【小沢コージのまとめ】ハイブリッドもいいけど、RSもね!

 というわけで新技術てんこ盛りの「FIT3」こと新型3代目フィット。今後しばらく日本車界はこれを中心にして回り、いつ最強のライバルであるトヨタ・アクアがリベンジしてくるがが楽しみだが、それ以上に驚かされたのは、冒頭でも書いた普通のガソリンエンジンモデルだ。

 現在、新型フィットの売れ筋はその73%がハイブリッドモデルで、ガソリンエンジン車は27%にすぎない。だが、最初は目新しいハイブリッドが注目されるが、次第に安くて高性能な後者も注目されていくだろうし、実際、どれも最新技術が投入された良いクルマだった。

 まず乗ったのは普及版たるアトキンソンサイクルの1.3LDOHCを搭載する「13G」だが、まさに必要にして十分。ピークパワー&トルクは、100ps&12.1kgmで若干ハイブリッドに負けるが、その分車重は100kgほど軽いし、なによりもCVTが扱いやすい。

 厳密に言うとハイブリッドは、走行モードにもよるが発進直後にエンジンが懸かり、多少スムーズさにかける。最もこれはECONモードを切ったりすれば収まるが、そうするとEV発進ができなくなったりする。

 それを考えると13Gで性能的には十分だし、JC08モード燃費も26km/Lとかなりのものなのだ。実走行でも20km/L弱は行くだろう。しかもこのモデルは、今回からアイドリングストップ用に蓄電キャパシターを搭載し、バッテリー回りの性能を高めた。結果、高価なアイドリングストップ用バッテリーを使わずに済み、エコな上に経済的にもお得だという。まるで手抜きなしだ。

フィットはラインアップの幅の広さが勝負のカギ

 さらに個人的に気になったのはスポーツモデルの「RS」。これまた完全新作の1.5L直噴DOHCを搭載し、パワー&トルクは132ps&15.8kgmとほぼハイブリッドと同等のスペック。コイツが多少引き締められた足回りを持つわけだが、どこからどう踏んでも爽快に走れるだけでなく、乗り心地が全然悪くない。部分的には、ハイブリッドより快適なところもあって、しかもCVT仕様のモード燃費は21.4km/Lと良好。ついでに渋滞では面倒だが、楽しい6MT仕様もある。もちろん当然、リアシートやラゲッジスペースは、旧型以上に充実したFIT3そのもの。

 不肖オザワ的には、もしかしてコレが一番楽しくてエコな“ツウなベストバイ”かと思ったくらいで、フィットの底ヂカラを感じた次第だ。

 なんだかんだで低燃費に引っ張られすぎている日本クルマ市場。燃費がいい方がいいに決まっているが、実は日本は世界でも最も「燃費を気にしなくていい市場」。

 なぜなら月平均500km程度しか走らない“短距離走行国家”であり、実際、実燃費で20km/Lを超えたらあとはいくら燃費の良いモデルに乗っても、月数百円ガソリン代が変わるか、変わらないか? というレベル。実利を考えたら、ハイブリッドはそれほどお得ではないのだ。それよりメンタル的な満足感の方が大きい。

 だから今回、ハイブリッドという超低燃費モデルと同時に、走りの楽しさを追求したRSも真剣に用意したフィット。この幅の広いラインナップこそが、ライバルにとって最も驚異的かつマネできないところなのかもしれない。

nikkeibp.co.jp(2013-10-03)