(ヒット!予感実感)3代目フィット、ホンダが総力結集

 【大和田武士】ホンダが総力を結集したという渾身(こんしん)の小型車がデビューした。世界最高水準の低燃費を実現した新型「フィット ハイブリッド」だ。小さな車体が背負う使命は、ライバルのトヨタ自動車に大きく水をあけられた国内ハイブリッド車(HV)市場での巻き返しと、その先にある世界販売の拡大だ。

 東京ディズニーランド(千葉県浦安市)近くの会場で5日にあった発表会。その車は、白いスモークの中から現れた。

 鮮やかななスカイブルーのボディーが、ステージ裏から走り出て、中央で止まる。フロントのホンダのエンブレム「H」が、スポットライトを浴びる。先代までは丸みを帯びたヘッドライトがトレードマークだったが、新型のライトは鋭角に引き締まり、研ぎ澄まされた印象を受けた。

 運転席からステージに降り立った伊東孝紳社長は、ディズニーランドになぞらえて、「魔法のような燃費と走りを実現した」と、絶対の自信をみせた。

 新型フィットは、ひしめくライバルとの戦いという宿命を背負う。伊東社長が、再三再四、開発責任者の小西真・本田技術研究所主任研究員ら技術陣を叱咤(しった)激励して求めたのは、「燃費世界一」の看板だ。

 社長がどうしても1番が欲しかったのにはわけがある。フィットは2001年の登場以来、ホンダの屋台骨を支えてきたが、その快走にトヨタがここ数年、ブレーキをかけているためだ。

 HV専用のトヨタ・プリウスの台頭。さらにサイズ、値段ともフィットと競合するトヨタの小型HVのアクアが、11年に販売されると、爆発的に売れ、ユーザーが流れたのだ。

 業界団体が発表した12年度の新車販売台数ランキング(軽自動車を含む)では、28万2660台が売れたアクアが首位。フィットは17万99台の6位で、アクアに10万台以上の差をつけられた。

 今回の新型は、アクアの後に世に出す、いわば「後出しじゃんけん」。燃費では絶対に負けられない。

 そこで、「スポーツ ハイブリッドi−DCD」と呼ばれる新システムは高速など走行状態に応じてEV、HV、エンジン走行から最も効率の良いモードを自動選択する仕組みを導入した。ボディーも軽量化し、HVでは国内最高のガソリン1リットルあたり36・4キロの低燃費を実現した。

 1リットルで35・4キロという低燃費を売りにしたアクアを上回り、欲しかった「1番」をホンダは手に入れた。

 本田技研の小西氏は「燃費ナンバーワンは当然だった。その上で、まずはフィットのユーザーに、新しいフィットに乗り換えてもらえるよう、燃費だけでなく走りにもこだわった」と語る。

 ホンダが意識する、フィットの価値とは空間、燃費、かっこよさ、そして楽しめる走りだ。価格は163万5千〜193万円と、アクアの169万〜194万円より低くした。

 国内の月間販売目標はHVとガソリン車を合わせて1万5千台に置く。日本営業本部長の峯川尚専務は「初代は月2万4、5千もいった。そこまで狙ってはいきたい。1万5千は絶対にやっていきたいところ」。すでに先行予約が2万5千台に達し、うち7割がHVという。

 発売当日の6日。ホンダ本社(東京港区)のウエルカムプラザ青山は、新型フィットをお目当てに、記念撮影をする人、座ってハンドルの握り心地を確かめる人、パンフレットを持ち帰る人とさまざまだ。誰もが熱いまなざしを送っていた。

 16年までに全世界で年150万台以上売ることがフィットシリーズの目標だ。世界各地のニーズに合わせた車を、1年以内に各地で販売する計画だ。

 おもしろい話を聞いた。ホンダが見据える新型フィットの本当のライバルは、プリウスでもアクアでもない。実は、4輪でもないという。

 最終的に目指しているのは、これまでに8350万台を生産し、160カ国以上で販売してきた、ホンダが世界に誇るバイク「スーパーカブ」だというのだ。

 開発責任者の小西氏は言う。「スーパーカブは世界中の多くのお客さまの暮らしを支え、毎日の生活に喜びをもたらしている。フィットもそんな存在にしたい」

 英語で「適した」「ぴったりの」という意味のフィットの車名どおり、顧客に寄り添う車になるための模索が続く。

【商品概要】

■商品名:ホンダ「フィット ハイブリッド」

■グレード展開:「HYBRID」=163万5千円、「同 Fパッケージ」=172万円、「同 Lパッケージ」=183万円、「同 Sパッケージ」=193万万円(いずれも消費税込み)

■色展開:ボディーカラーは「ビビッドスカイブルー・パール」など11色(一部、ガソリン車のみ)。

●メモ フィットHVのほか、ガソリン車の「フィット」(排気量1・3リットルと1・5リットル)も同時に発売。価格は126万5千円〜180万円。

 初代フィットは02年に、国内新車販売で33年連続で不動の王座を守り続けていたトヨタのカローラを倒して、首位になる快挙を成し遂げた。07年には2代目に移行、10年にはHVを投入し、根強い人気を誇った。これまでの累計販売台数は国内で約200万台、世界では487万台。

asahi.com(2013-09-12)