パソコンの覇者、スマホで落日 MSは世代交代を模索

 【ジャクソンホール=畑中徹、ワシントン=山川一基】米ソフトウエア最大手マイクロソフトのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が23日、1年以内に退任すると発表した。主力のパソコン関連事業の伸びが鈍っているため、経営を刷新して新たな事業を模索せざるを得なくなった。スマートフォン(多機能携帯電話)などが台頭し、パソコンで一時代を築いた企業はいずれも苦戦を強いられている。

 退任が発表された23日、ニューヨーク市場ではマイクロソフト株が前日より7%超も上がった。バルマー氏は2000年にCEOに就いた時より売上高を3倍に増やしたが、投資家は経営を刷新して新しい路線に踏み出すことを望んだ。

 バルマー氏は創業者のビル・ゲイツ氏と大学時代からの親友で、1980年にマイクロソフトに入った。CEOを譲り受けたころはITバブル前夜。世界の家庭にパソコンが急速に広がろうとしていた。

 主力商品は基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ」とビジネスソフトの「オフィス」。米半導体最大手のインテルがつくる半導体とともに「ウィンテル連合」と呼ばれ、世界のパソコン市場で圧倒的なシェアを握った。

 しかし、00年代後半に転機が訪れる。パソコンに代わり、米アップルが「iPhone(アイフォーン)」で開拓したスマートフォンや「iPad(アイパッド)」などのタブレット端末が、手軽さや便利さを武器に広がり始めた。主役はアップルや、これらに適した無料OS「アンドロイド」を提供した米グーグルだ。

 世界のパソコン出荷台数は伸びが鈍り、12年にはついに減少に転じた。マイクロソフトも12年4〜6月に初めて赤字に陥った。

 バルマー氏は「端末とサービスの会社」を掲げ、独自の携帯電話やタブレット端末を発売した。だが、先行するアップルなどの商品を超えるものを生み出せず、低迷したまま。最新OS「ウィンドウズ8」はタブレット端末でも使いやすいように工夫したが、やはり苦戦している。

 脱パソコンには創業期の世代から新たな世代にバトンタッチするしかない。バルマー氏らはそう判断したようだ。今後、社内外で後任探しを進めていく。

■インテル・デル・HP低迷、日本勢も多難

 「パソコンの巨人」たちは変化に追いつけず、悪戦苦闘している。

 インテルはスマートフォンなどへの対応が遅れ、今年4〜6月期決算は6四半期続けての減益になった。5月には、05年から指揮をとったポール・オッテリーニCEOが退いている。

 米パソコンメーカーのデルは、在庫を持たずに注文を受けてからつくる手法で成長したが、やはり業績低迷が続く。2月には創業者らが株式をすべて買い取って「株式非公開企業」になると発表した。株価を気にして目先の利益を追わず、事業を立て直すねらいだ。

 ヒューレット・パッカード(HP)も勢いがない。パソコン出荷台数は昨年7〜9月に中国のレノボグループに抜かれ、06年から守ってきた首位の座を明けわたした。11年9月にはCEOが事実上更迭され、後任のメグ・ホイットマンCEOも再建に苦しむ。

 日本メーカーはさらに厳しい。NECは11年にレノボとパソコン事業を統合し、富士通とソニーのパソコン事業は今年3月期決算で営業赤字に陥った。日本のパソコン市場は前年より2割近く縮んでおり、業績を改善させるのは至難の業となっている。

asahi.com(2013-08-24)