小沢コージ:ホンダ・アコード ハイブリッド、
遂にトヨタハイブリッドに勝った!?

【コンセプト】10年以上負け続けたホンダ

 目からウロコというか、こんな手があったのか? というキブンである。そう、ホンダの新型ハイブリッドカー、「アコード ハイブリッド」だ。

 ハナシは単純明快。新型のJC08モード燃費は30km/L。一見、国内基準で世界最高の35.4km/Lを誇るトヨタ「アクア」や、同32.6km/Lの「プリウス」には届かない。しかし燃費は当然デカくて重いほど不利なわけで、ボクシングのように階級別で判断すべきと考えると、アコード ハイブリッドは、全長4.8m程度のミディアムセダンクラスになる。となると同階級の現チャンピオンは23.4km/Lのトヨタ「カムリ ハイブリッド」。これを軽く超えるのだ。しかもモード燃費差2割強という圧倒的アドバンテージを付けて。

 ホンダがハイブリッドでトヨタを超えるなんて……久しくなかったハナシだ。事実ホンダマンも「この10年間、後塵を拝してきましたから……」と悔しさを隠さない。

コッテリしていながらローカロリーなおいしいハイブリッド

 もちろんそこはイコールに語れない部分もあってまずは価格差だ。304万円から始まるカムリ ハイブリッドに対し、アコード ハイブリッドは60万円以上も高い365万円から始まる。また動力バッテリーに高性能なリチウムイオンバッテリーを採用し、なぜかトランクルームがカムリ ハイブリッドよりも狭いなどの欠点もある。

 ただし、価格差に関しては装備差もあるし、それ以上に、両者は同じ“ハイブリッド”でも成り立ちと味わいが全然違う。

 言わば同じように赤身と脂身が混合したシモフリ(ハイブリッド)肉でも、育ちと味わいが違うように、シクミとテイストが全然違うのだ。しかも驚いたことに、個人的に言わせてもらうと、新型アコードの方がよりコッテリとしていながら、ローカロリーというおいしいとこ取りのシモフリカーになっている。もちろん不利な点もなくはないのだが……。

 今回も不肖小沢が独断と偏見で見ていこう。

【インプレッション】ジェネラリストとスペシャリスト

 はたしてそのホンダ流マジックとは、新システムの「i-MMD(インテリジェント・マルチ・モード・ドライブ)」にある。これはホンダが「スポーツ ハイブリッド」と呼ぶもので、シクミ的にはハイブリッド専用エンジンと、動力用リチウムイオンバッテリーが各1つで、モーターが2つの「2モーター式」。モーター数的にはトヨタのハイブリッドシステム「THS II」と同じである。

 だが、考え方がまるで違っている。トヨタが2つのモーターで発電と動力をそれぞれ複雑に行うのに対し、ホンダは一方がエンジンとつながって効率良く発電する発電専用で、もう一方がタイヤとつながり駆動と回生を行う走行専用に役割が分かれている。

 つまりトヨタがある意味ジェネラリスト制を採用したのに対し、ホンダは専門分野を持つスペシャリスト制を採用したのだ。ここの考えが大きく違うところで、このことによりホンダ流は部門ごとの効率を追求できた。

 しかも結果、走行フィーリングは大きく分かれることになった。トヨタ流はいつエンジンがかかるのか、エンジンパワーとモーターパワーの配分が何対何かがよく分からない。しかしホンダは基本、加速はモーターパワーのみで、EV走行はもちろん、エンジン音がするときも、大抵はモーターのみだ。エンジン音はスピードの上昇とともに巧妙に上がったりするが、それは見た目上の話で、要するに加速特性はほぼEVなのだ。

 唯一、純粋EVと違う加速を見せるのは、時速70km以上の高速クルージングのとき。この場合、エンジンとタイヤがクラッチを介して直結し、効率良くダイレクトにエンジンパワーのみで走る。それが「エンジンドライブモード」であり、走行用モーターも発電用モーターもたいてい休んでいる。ときおり必要に応じて、パワーサポートや回生を行うという感じだ。

事実上のEVで、メッチャ速い!

 前置きが長くなったが、実際の加速フィーリングがどうなったかというとメチャクチャ速い! それもほぼ全速度域でだ。

 事実、動力モーターのスペックはピークパワーが124kWでピークトルクが307Nm。これは2Lエンジン級のパワーと、3Lエンジン級のトルクに値する。

 しかも日産「リーフ」や三菱「i-MiEV」に乗った人なら分かると思うが、EVは出足の良さがハンパじゃない。こればっかりは乗らないと分からないが、頭で「アクセルを踏もう」と思い、踏んだ瞬間、既に「加速している」感じ。EVは操作レスポンスが内燃機関自動車の比ではなく、しかもホンダはその特性を今までのEV以上に引き出しているのだ。小沢の個人的感覚では、日産リーフと同等かヘタするとそれ以上。

 特に良かったのは追い越し加速である。今回アコード ハイブリッドには、EV走行を日常生活全域で行える、電池量を増した「プラグイン ハイブリッド」仕様があるのだが、エンジンスペックもモータースペックもまったく同じ。つまり、単純に無駄なエンジン音を省いて加速力が味わえるのだが、伸びはかなりすごかった。もしや加速特性はノーマルと微妙に違うのかも知れないが……。

渋滞でいきなり10km/L台に持ってきた

 さらに驚いたのがメーター読み実燃費だ。今回小沢はアコードハイブリッドを数日を借り、都内から近郊を一般道や高速で走り回ったのだが、信じられなく良いのだ。

 まず初夏の外気温30℃を超える猛暑の中、クーラーをほどよく冷えるまで使いつつ、150km走った総合燃費は16.1km/L! 十分良いが、これは撮影時にゆっくり動かした状況も含めての数字だ。これらを除き、高速を下りた直後に測った100km走行後の区間燃費は19.9km/L! さらに一般道をカットした高速63kmの区間は、22.5km/L!! 全長4.9mちょいで、車重1.6tのクルマであることを考えると、信じられないほど良いと言っていいだろう。

 過程がまたすばらしい。家を出るときにメーターをリセットして出発。今はかなり夏モードで暑いので、車内に入るなりクーラーオン! 温度を27℃に設定したところ、結構な勢いで室内は冷え、「燃費はダメだろうなぁ」と思っていたのだが、そんなことはまるでなし。時速30km程度でトロトロ渋滞気味の下町を走っていても、すばやくメーター表示でリッター10km/Lに達する。

 さらにビックリなのが、スピードを上げれば上げるほどに伸びる部分で、市街地を抜け、国道に入り時速60km走行になると、グングン上がってすぐさま15km/L前後! さらに数km走り、高速に入って時速100km前後でほんの10分走ったらもう20km/L以上!!

 これには驚いた。これはほとんどプリウス並みの感覚で、しかも加速がより気持ちいい。

ストレスと低燃費の両立ぶりは新次元!

 もちろんトヨタのTHS IIも、だんだんレスポンスが良くなっていて、直接ライバルのカムリやレクサス「IS」はそのハイブリッドのネガティブさを感じさせないが、燃費仕様のプリウスは違う。低燃費のためか、発進時にアクセルを踏んでも思い通りに加速しない。モワーっと発進し、徐々にアクセルを踏んだレベルに追いつくように加速する。

 だが、アコード ハイブリッドは違う。前述通り強力モーターで発進から驚くほど力強く、思ったどころか思った以上に加速し、ストレスをまるで感じないのだ。

 その分、節操のない人ならばガバガバ踏んでしまい、燃費を落とす結果にもなるのだろうが、自制心の効いた人なら、欲しい分だけ加速し、自然とペダルをゆるめるから燃費的にも問題ない。人によってはトヨタ方式より気持ち良く低燃費を実現できる。

乗り心地良好でスポーティー

 同時に感心させられたのが走りの質、つまり乗り心地とハンドリングだ。アコードは、ボディから完全新設計で、特に軽量化もあって、サブフレームをアルミ化するなど気を配っている。それでも車重は、ベーシックモデルでも1620kgと結構あり、それもあって乗り心地はかなりしっとり。ただし、高速で荒れた路面に入ると、予想以上にバタツク。

 そしてハンドリングだ。これは、本当に予想外で、そのサイズと車重を考えると完璧に裏切られる。ステアリングを切ったら即座にノーズが付いてきて、まさしく「スポーツハイブリッド」なのだ。

 特に走行用リチウムイオンバッテリーを1.3kWhから6.7kWhに倍増させ、満充電で約37.6のEV走行を可能にした「プラグイン ハイブリッド」はよりスポーティー。なぜならバッテリーを後方トランクルームに搭載する分、前後重量配分が98対66から97対77からに変化しており、かなりのリアヘビーなのだ。感覚としては、ちょっと大きなフィットを運転しているようでもあり、少々ヤリ過ぎと思えるくらいだった。

スペシャリスト化戦略の成功

 予想以上の走りと燃費の良さを発揮したアコード ハイブリッド。その理由を小沢流に分析するならば、「EVにはまだまだ未来がある」ということだろう。

 一時期ほどもてはやされなくなったEVだが、アコード ハイブリッドを見ればわかるように、ガソリンを一旦電力に変えてでも、電気モーターでクルマを動かすのは効率が良い。その昔、EV単体でのエネルギー効率は90%以上といわれたが、その通りなのだ。

 しかもホンダ流のスペシャリスト化戦略に特性はより進化し、専用のリチウムイオンバッテリーと専用動力モーターは非常に効率がいいとか。おそらくほとんどロスがない。

 エンジン単体の熱効率もかなり良いようだ。今回の2L直4エンジンは完全新設計で、効率の良いアトキンソンサイクルを採用。しかも、ほぼ発電用として使うと割り切ったため、特性をより最適化できた。

 実際、発進フル加速した時、時速60km前後である程度の高回転に達し、そこから上はエンジン回転数一定。おそらくその状態での発電効率が一番良いのだ。これまたスペシャリスト化が功を奏している。

 そのほか新開発の電動サーボブレーキシステムや、ホンダ初のフルLED化した。ヘッドライトもあり、システム全体で効率が上がっている。

 今回アコード ハイブリッドがカムリ ハイブリッドを大幅に凌駕できたのは、その電気モーター中心と割り切ったことゆえの効率の良い加速もあるが、それ以上に電池単体やモーター、さらにライトや補機類の効率アップも大きい。まさしく総合力の勝利なのだ。

 そのほかホンダのi-MMDで浮かび上がってきたのは、トヨタTHS IIのフリクションの大きさだ。遊星歯車により常時2つのモーターとエンジンが結び付いているトヨタのTHS IIシステムは、本質的に抵抗が大きい。普段は、そこに気づかれないが、単体効率を上げてきたホンダのi-MMDと比べると差が浮かび上がってくるのである。

【小沢コージの結論】一番残念なのはフツーなデザイン

 というわけで走り、システムともにまったく新しいハイブリッドカーの世界を作り上げてきたホンダ アコードだが、中身が新しくなればなるほど気になってくるのがデザイン的インパクトだ。

 その昔、ソニーの技術者は「デザインと中身が一致して初めて爆発的なイノベーション力を発揮する」といい、スティーブ・ジョブスも同様のことを言ったが、そこが新型アコードは決定的にデザインが弱い。

 もちろんセダンとしては頑張っているし、室内も身長176cmの小沢が前後に座ってスペース的に余りあり、パッケージングも決して悪いところばかりではない。だが、トランク容量はノーマル ハイブリッドでゴルフバッグ3個の搭載が精一杯で、よりバッテリーのかさむプラグイン ハイブリッドだとわずか2個程度というのはどうにも狭い。

 デザイン的にもサイドの抑揚あるプレスラインや、リアのトランク回りの造形に今のトレンドは取り入れられているが、全体として新しさは感じられない。

 なによりこの時代に、ボディーがミディアムセダンのみというのはハッキリ言って終わっている。実際、この電池もモーター代もかさむ高額なハイブリッドカーを買うのは、セダンを買う年配層なのだろうが、これでは贅沢品としてしか認知されないし、事実、日本での販売目標はわずかに月1000台。

 これじゃ新しさを新しい世代が享受できないし、とても「クルマ界のiPhone」「iPad」とは言えないのだ。

 これは1980年代から1990年代にかけて、そのクリエイティブパワーで猛威を振るったホンダを考えると、かなり寂しい。

 とはいえホンダ逆襲の本命は、今後出る「フィット ハイブリッド」だというから、是非ともそちらに期待したいモノだ。

終わりなき省燃費の旅

 ただ、これでホンダがハイブリッドカー戦争でトヨタに勝ちを収めたと思ったら大間違い。ホンダ関係者も

 「トヨタさんは正直、ここ10年お休みモードでしたから。本気になって新技術を投入してきたらどうなるか……三日天下にならなきゃいいんですけど(苦笑)」と言うほど。

 例えばトヨタ流エコカーの象徴、プリウスの中身は2003年発売の2代目から基本的な部分は変わっていない。そのTHS IIの「II」の名称からも分かるように、基本的なシステムの考え方、モーター、電池スペックに至るまでブラッシュアップ程度。

 本気でシステムを見直し、動力バッテリーをリチウムイオンに変えてきただけでも、大幅な性能アップが見込める。おそらくJC08モード、40km/Lは夢じゃない世界なのだ。

 とにかくこの省燃費レースには終わりがない。今年はいろんな意味でさらに動く可能性がある。事の成り行きを、しっかりと見守りたいと不肖小沢も思っている。

nikkeibp.co.jp(2013-07-16)