自動車株に暗雲、中国で日本車減速リスク

 輸出株の雄である自動車株。5月23日の相場急落後も、円高修正や主要市場の米国の復活を追い風に株価はおおむね回復基調をたどっている。しかし思わぬ所から暗雲が漂いだした。世界最大の市場である中国だ。

 「これが忙しそうに見えるか?」。北京市最大の自動車小売市場「亜運村汽車交易市場」。「豊田(トヨタ)・本田(ホンダ)4S店専売」の看板を掲げた販売店の前では、数人の営業担当者がトランプや雑談にふけっていた。「相変わらず客は少ない。よそに取られてるからね」。時間を持て余す日々だという。

 世界最大の中国市場で、日本車の苦戦が続いている。中国汽車工業協会が10日発表した6月の新車販売台数は175万4100台と、前年同月に比べ11.2%増加。景気の減速懸念が強まる中国だが、マイカーブームが全土に広がる自動車に関しては依然好調だ。それでも、日本勢は6月も大手6社中4社が前年割れと振るわなかった。昨年9月の反日デモから、まもなく1年がたとうとしているのにだ。

 グラフは今年1月以降のメーカー別販売台数増減率の推移だ。米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)、韓国・現代自動車が前年を上回る販売を続けるなか、日本勢は最近になっても水面下を行ったり来たり。世界の大手メーカーの中では日本勢が「総じて負け」と言っていい、散々な状況が続く。

 日本車の存在感も急速に低下している。今年6月の日本車の中国シェアは16.5%と、国別シェアでトップだった前年同月から3.7ポイント強も落ち込んだ。代わってシェアを伸ばしたのが米欧韓勢だ。今年6月はドイツ車が20.6%とシェアを1.4ポイント拡大。同じくシェアを伸ばした米国車(12.7%)や韓国車(9.4%)の猛追を受けている。

 要因は様々だ。「新車を買っても、壊されるかもしれない」。日系ディーラーの既存客の中には、こう言って離れていく客がいまだに多いという。「反日」で日本車のブランド価値は相当傷ついた。これを好機とみた米欧韓勢も攻勢を強める。

 「日産見てきたんだろ。こっちは優恵(値引き特典)があるぞ」。こういって勧誘してきたのは「亜運村汽車交易市場」で日系ディーラーと店先を並べる現代自のディーラーだ。さらにこう付け加えてきた。「それに日本車はイメージが悪い」

 例えば主力セダン「ソナタ」の最上級グレード。通常なら24万9900元(約400万円)のところ、今なら4万元引きの20万9900元で買えるという。対する日産の「ティアナ」は24万4800元。明らかに「日本車」を標的にした販売促進活動だ。

 販売面だけではない。中国販売首位のGMと2位のVWは今後3〜6年間で世界生産の4〜5割を集中させる「中国シフト」でシェアを争う。シェア3位の現代自も中国で4番目となる大型工場の建設を計画中。3社に共通するのは「日本車を中国市場から追い落とす絶好のチャンスだ」(GM幹部)という認識だ。

 中国事業の変調は日本車各社の株価にも影を落とす。例えば日産自動車だ。日本勢で最も販売量が多く、世界販売に占める中国比率は12年に2割強と日本勢2位のトヨタ(1割)を大きく上回った。しかし、これが裏目に出て13年3月期は大手7社中唯一の営業減益となった。今年4月には株価が一時、800円台半ばまで落ち込んだ。

 今後も中国で日本車の苦戦が続くのは必至だ。一方、復調傾向にある米国市場に経営資源を集中させたいという思惑も働くだろう。とはいえ中国市場から逃げ出すわけにはいかない。

 中国の新車販売は12年に米国の1.3倍の1930万台に達したが、総人口に対する普及率は1割と、先進国の6〜8割に比べ格段に低い。20年には3000万台市場になるとの予測もあり、各国の自動車大手は目下、中国を世界で最も成長余力に富む市場と位置付ける。

 「世界の列強がガチンコで勝負しているのが中国市場だ。そこを落とすわけにはいかない」。トヨタ自動車の中国事業を統括する大西弘致専務役員も指摘する。中国市場で失敗すれば、ブランド力にも影響し、ひいては東南アジアやアフリカなどの世界競争にも響きかねないからだ。

 事実、常に新たな材料を探している株式市場は世界競争の次の段階を見据え始めたようだ。米国ではGMが過去1年(52週)の高値を連日更新中。一方、日本メーカーでは、トヨタが5月下旬に付けた年初来高値に比べ5%安い水準まで戻しているが、マツダ(同8%安)、日産自(同12%安)、ホンダ(同14%安)など、株価の戻りにばらつきが出ている。「米国好調」と「円高修正」という材料だけでは、株価上昇は続かない。

 米国市場の復活、そして中国市場でのシェア拡大。この両輪をいま一番うまく回せているのがGMかもしれない。日本車各社も「中国」とどう向き合っていくか。この古くて新しい問題が、自動車株の今後を占う上で改めて大きな材料になってきそうだ。
<<中国総局 阿部哲也>>

nikkei.com(2013-07-12)