VW、世界首位狙い「設計革命」 多様性と量産を両立

 【独ウォルフスブルク=木村裕明】欧州の自動車最大手、独フォルクスワーゲン(VW)が2018年に販売台数で世界首位に立つ目標に向けて攻勢を強めている。世界各地のニーズを満たす多様な車を開発しながら、量産によるコスト削減も同時に進める。快進撃の原動力は、この二兎(にと)を追う車の「設計革命」にあった。

■自由度残して共通化

 ドイツ中部のウォルフスブルク市。5万2千人の従業員が働く世界最大級の本社工場を訪ねると、看板車種「ゴルフ」の新型モデルの生産が本格化していた。連日3交代の勤務で、フル操業が続く。6月下旬に日本で発売された車も、この工場から輸出する。

 新型ゴルフは、4年ぶりに全面改良した7代目。世界で売る主力の小型車だ。昨年9月にドイツで発売してから、欧州ではその後の半年で15万台強を受注するヒットとなった。「欧州カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたゴルフは我々のシンボル。大変大きな意味を持つ車だ」。VWのビンターコルン会長は力を込める。

 かつて伊アルファロメオのデザインで名声を博したイタリア人、ワルター・マリア・デ・シルバ氏の手によるデザインも注目を集めるが、業界の関心はむしろ、外から見えない部分の車の進化にある。7代目ゴルフを皮切りに、VWが新型車の開発・生産のプロセスの大刷新に踏み出したからだ。

 まずは、今後数年間に投入する小型から中型の乗用車を対象に、アクセルペダルと前輪の車軸との距離、エンジンを積む位置や角度を共通化する。開発・生産コストの6割がかかるこの部分の設計の共通化で、開発効率の大幅アップをねらう。

 一方、前後・左右の車輪の間の距離などは、ある程度自由に変えられるようにしてある。共通にする部分でコストを抑えつつ、小型車からミニバン、スポーツ用多目的車まで多様な車をつくり分けられる自由度を残しておくためだ。

 VWはこうした設計手法を「モジュラー・トランスバース・マトリックス(独語略でMQB)」と呼ぶ。日本語に訳せば「モジュール型横置き用積み木箱」。複数の部品を一体化した「モジュール」という部品の固まりを、積み木を組み合わせるように組み立てて車をつくる新しい手法だ。

 今後は、エンジンを横向きに置く前輪駆動車の大半をこの手法で生産する。18年に世界販売1千万台を目指す中、16年にはMQBで400万台をつくる。

 VWブランドの小型車ポロから中型車パサートまで幅広いサイズの車を統一したルールでつくれるだけでなく、グループの独アウディの小型車A3、シュコダ社(チェコ)やセアト社(スペイン)の新興国向けの新型車にも展開する。エンジンの載せ方の種類が激減し、エンジン周りの部品の種類も大幅に減るという。

■競合他社も改革着手

 世界の自動車各社は1990年代以降、車の土台である車台を集約し、複数の車種で共通化することでコスト削減を進めてきた。

 しかし、新興国市場の拡大で高級車から低価格車まで幅広い品ぞろえが求められるようになり、原価低減と製品の多様性を両立できる、より高度な設計手法が必要になってきた。

 VWはこの難題をMQBで解決し、国際競争をリードしようと狙う。一方、日本勢はこれまで市場ごとのニーズに応じて車をつくり分け、その度に部品を設計することが多かった。個別最適に陥りがちだが、膨らむコストは現場のカイゼンで抑えてきた。だが、今後は「規模の経済」を追うVWの設計思想にどう対抗していくかが問われる。

 VWは傘下に12ブランド、280車種を抱える。クリスチャン・クリングラー取締役は「こういう企業構造だからこそMQBには意味がある」と話す。ブランドごとのデザインの多様性を守りつつ、客から見えない部分で相乗効果を上げようとする。

 MQBの車種をつくる工場では、生産工程や設備、ロボットも世界的に共通化するので、生産コストも大幅に下がる。一つのラインでサイズの違う複数の車種をつくれるようにするため、需要の変動にも対応しやすい。VWは中国やブラジル、インドなどにも順次、MQB対応の工場を広げていく計画だ。

 VWの2012年12月期の純利益は前年比38・5%増の218億ユーロ(約2兆8千億円)。欧州市場の低迷が続く中、過去最高を塗り替えた。販売台数もトヨタ自動車、米ゼネラル・モーターズ(GM)に次ぐ3位。MQBを武器に成長を続け、欧州勢でひとり気を吐く。利益水準ではすでに世界の自動車メーカーのトップを走り、日本勢にとっても手ごわい存在になりつつある。

 トヨタや日産自動車などライバルにも設計改革の取り組みが広がる=表。トヨタの林南八技監は「多様な好みに応えながら、ロスを減らしたい。取り組みはまだ緒についたばかり。馬力をあげてやっていきたい」と話す。

asahi.com(2013-07-07)