ホンダ「環境奉行」6人、世界各地のエコ戦略を推進

 ホンダには6人の「環境奉行」がいる。世界6地域の統括責任者がそれぞれの地域の環境会議議長を兼務しており、市場動向に応じたエコカー開発も主導する。6人が語る環境戦略からホンダが独自技術を武器に全方位で二酸化炭素(CO2)排出量削減などを進めるエコ戦略が見える。

■米、高級車のHVモデルを年内に投入

 6月18日、ホンダ本社(東京・港)で開かれた環境戦略説明会。アロハシャツのクールビズ姿で伊東孝紳社長と6人の「環境奉行」が現れた。伊東社長が「個人向け乗り物を作る自動車メーカーであり続けるため、どこの会社よりも早くCO2対策を進める」とあいさつした後、6奉行が各地域の環境戦略を説明した。

 「米国ではシェールガス革命が起きているが、中長期的にはガソリン価格の高止まりは続き低燃費車に対する需要は高い」(北米環境会議議長の岩村哲夫副社長)。

 景気回復やガソリン価格下落を受け、米国人が好むピックアップトラックなど大型車の販売が急回復する米国市場。このままゼネラルモーターズ(GM)など米ビッグ3に有利な市場に逆戻りするのでは、という見方を岩村氏は一蹴した。

 ただホンダが米国でも販売を強化するハイブリッド車(HV)を拡販するには「一段のコスト低減が必要」と指摘。米国勢が今後、小排気量のターボチャージャー(過給器)エンジン車を強化する可能性があるとして、高級車「アキュラ」のHVモデルを年内に発売するなど低燃費車攻勢で対抗する。

■欧州、燃料電池車普及へ各国政府と交渉

 「南米最大市場のブラジルも環境大国でエコカーへの関心は高い。バイオエタノール車などの新型車を投入する」(南米環境会議議長の武田川雅博常務執行役員)。

 40年前から国策としてサトウキビ原料のバイオエタノール燃料利用を促すブラジル。四輪車も二輪車もバイオエタノール仕様が主流で、ホンダも対応車種を増やす。また年間16万台を生産するブラジル工場には9基の風力発電設備を14年に稼働し、同工場に必要な電力すべてを賄う計画だ。

 「欧州は世界で最も環境規制が厳しい。燃料電池車などホンダの最先端技術を広げていく」(欧州環境会議議長の西前学常務執行役員)。

 販売回復の兆しが見えない欧州市場。ディーゼル車比率が5割を超えるため、ホンダの強みであるHVの販売も苦戦が続く。西前氏は小型ディーゼルエンジン搭載車で巻き返すほか、四輪車のエンジンを一新する考えを示した。また燃料電池車の普及に向け欧州各国の政府との交渉も強化する姿勢を示した。

 「インドなど新興国でも先進的な環境規制が導入され、HVなど低燃費車が鍵を握る」(アジア・大洋州環境会議議長の小林浩常務執行役員)。

 東は韓国、西はパキスタン、南は豪州と広大な地域を統括する小林氏は、各国の環境規制強化に対応するのは現地での調達・生産の拡大が必要と指摘。またタイやマレーシアでHVの現地生産に着手するなど低燃費車を増やす戦略も示した。

■中国、3年以内にHVを現地生産

  「中国で3年以内にHVの現地生産を始める。全カテゴリーで燃費ナンバーワンをめざす」(中国環境会議議長の倉石誠司執行役員)

 最大の自動車市場となった中国。昨秋の尖閣諸島問題で日本メーカーに逆風が吹いたが、倉石氏は「環境性能の高い日本車、特にHVに対する関心は富裕層を中心に非常に高い」と話す。HVの現地生産で低価格化を進めて、中国でシェアを拡大する米独メーカーに対抗する。

 「日本では再生可能エネルギーに対する期待が一段と高まる。工場や販売店で太陽光パネルの設置を拡大する」(日本環境会議議長の峯川尚専務執行役員)。

 7月稼働の寄居工場(埼玉県寄居町)では2600キロワットの発電能力を持つ太陽光パネルを設けた。一般家庭459軒分に相当し、国内自動車工場では最大規模という。販売面でも「アコード」「フィット」の新型車に世界最高水準の燃費効率のHVモデルを国内市場に投入する。

■環境対応車、市場ごとに需要異なる

 この6奉行の取りまとめ役が伊東社長で「Honda世界環境安全会議議長」の肩書も持つ。「社会が求める環境の価値と、自動車の走る面白さを両立させたい」。こう自信満々の表情で話す背景には、独自で環境技術を開発できる体制がある。

 自動車の燃費規制は世界中で一段と強化される。市場によって普及するクルマが異なるため、1社ですべての環境対応車を開発できるメーカーは数少ない。その1社がホンダだ。ただ伊東社長は「自動車の商品サイクルはさらに短くなり、環境対応車の需要も地域ごとに異なる傾向が強まる」と指摘。同社の技術力でも全領域の環境技術を開発できない可能性はある。

 各地域が自立して、市場ごとに異なる環境対応車の需要を先取りしてヒット車を開発できるか。伊東社長と「環境奉行」6人の連携が欠かせない。 (産業部 松井健、緒方竹虎)

nikkei.com(2013-07-01)