マイクロソフトは流れを変えられるか、失点“8”に改良版

 iPad(アイパッド)をはじめとするタブレット(多機能携帯端末)機の台頭に対抗するために、マイクロソフトが昨年10月に投入した「ウィンドウズ8」。だが、「過去最速のペース」というマイクロソフトの公式発表もむなしく、米ガートナーの推計で今年のパソコン出荷台数が前年比10.6%減という予測が出るなど、前年比67.9%増という高い伸び率を見せるタブレット端末に対して劣勢な状況が続いている。そこで、マイクロソフトは改良版「ウィンドウズ8.1」を異例と言える早さで開発、今年中に提供することを米国で26日に明らかにした。今度こそタブレット端末に対抗できるのか、ウィンドウズ8.1での改善内容をいち早く報告する。

-------------------------------------------------------------------

 マイクロソフトは現地時間26日(日本時間27日)、アメリカ・サンフランシスコで開催中の開発者向けイベント「BUILD(ビルド)」で、ウィンドウズ8の改良版となる「ウィンドウズ8.1」のプレビュー版を発表した。

 早速、ウィンドウズ8.1のプレビュー版が入ったマイクロソフトのタブレット「Surface Pro(サーフェス・プロ)」を触ることができたので、第一印象をリポートしたい。

 ウィンドウズ8.1を使った第一印象はウィンドウズ8とあまり変わらない。だが、細かいところでの改良が加えられ、地味ながらも使いやすくなった。

 今回、マイクロソフトがこだわったのが「小型タブレット」での操作性だ。急速に市場が拡大している7〜8インチの小型タブレットで、さらに縦画面でも快適に使えるように操作性が配慮されており、電子辞書アプリ(応用ソフト)、ニュースアプリなどが読みやすくなっている。

 マイクロソフトとしては、小型タブレット市場で一人勝ちを続けるアップル「iPad mini(アイパッドミニ)」への対抗を意識したものだろう。

■スタートボタンは復活したものの...

 利便性が向上したのがスタート画面だ。アプリのタイル表示が柔軟性を増し、サイズを大きくしたり小さくしたりすることが可能となった。これまでは、スタート画面のタイルとして「大」と「小」の2種類しか使えなかったが、ウィンドウズ8.1では「特大」と「特小」といったサイズも使えるようになった。

 例えば、天気予報アプリのタイルを大きくすると複数年の天気が表示される。また、株価アプリでも複数の銘柄が一度に確認できるなど、いちいち、アプリを開かなくても、スタート画面を眺めているだけで従来以上に数多くの情報を認識できるようになった。

 また、これまではインストールしたアプリすべてがスタート画面にタイルが並んでしまい、それだけでスタート画面がごちゃごちゃして整理するのが大変だった。だが、ウィンドウズ8.1では、別ページにあるアプリ一覧にまず追加し、そこから自分が必要とするアプリだけをスタート画面に追加するように改善した。ウィンドウズ8を使っていると、不要なアプリが並んで、これを整理するだけでも手間だったので、この改良は本当にありがたい。

 従来のアプリが起動するデスクトップ画面には、左下に「スタートボタン」が復活した。しかし、ウィンドウズ7までは、スタートボタンを押すと「終了」したり、アプリを一覧表示しそこから起動したりするといった操作性だったが、ウィンドウズ8.1では単にスタート画面に戻るという仕様になっている。つまり、スタート画面とデスクトップ画面をスムーズに切り替える役割をもつボタンで、従来のスタートボタンとはまったく異なる。

■ウェブ検索機能を強化

 「検索機能」が向上したのもウィンドウズ8.1の特徴だ。

 ウィンドウズ8では、画面右から「チャーム」というパネルを出して、そこから検索する。これまではファイルやアプリなどローカルにあるものしか検索に対応していなかった。ウィンドウズ8.1では新たにマイクロソフトの検索サイト「Bing」を使ったインターネット検索が可能となった。

 例えば「東京スカイツリー」と入力すれば、東京スカイツリー関連のウェブサイトや、インターネット上にある画像をまとめて検索できる。

 さらに、画像から「赤色」など色別に再検索をかけたり、写真ではなくイラストの画像を探し出したりすることも可能だ。プレゼンテーション資料に挿入する画像を探すのにとても便利そうだ。歌手名などを入力すれば、楽曲やユーチューブの動画へのリンクが表示されるが、アメリカのBingに比べると日本で表示されるコンテンツは少ないようだ。

■画面を分割したアプリの同時表示が柔軟に

 ここにきて「ようやく」という言うべき改善点もある。

 ウィンドウズ8では、ストアアプリはフルスクリーン表示が一般的だった。かろうじて画面左右の端に別のアプリを縮小表示させることはできたが、表示できるサイズが決まっており使いづらかった。だが、ウィンドウズ8.1では、画面を縦に分割し、3つ以上のアプリを並べて表示する、ということもできるようになった。

 メールアプリであれば、これまではメール中にあるURLをクリックすると、ブラウザがフルスクリーン表示で起動してしまっていたが、ウィンドウズ8.1では画面が分割され、メールとウェブを同時に表示できるようになった。

 解像度の高いディスプレーであれば、メールと2つのウェブ画面、ツイッターのように4つのアプリを同時に表示することも可能だ(ただし、サーフェス・プロでは解像度の関係で2つまで)。

 ウィンドウズのようなパソコンでは、複数のアプリを同時に立ち上げて、切り替えながら使うというやり方が一般的で、アプリもそれを前提としていることが多い。そのため、「当たり前」のことが改めてようやくできるようになると便利だし、何だかうれしい。

 文字入力においても、これまでは変換候補が入力したい場所と離れて表示されていた。だが、ウィンドウズ8.1では入力したい場所のすぐ近くに表示されるようになった。また、入力文字種を切り替えなくても、キーボードの最上段で指を横に滑らせる「フリック」もしくは長押しすると数字が入力できたり、「?」を長押しすると「!、#、@」のキーが周辺に表示され、それらを入力できるようになるなど、スマートフォンのソフトウエアキーボードに近い操作性で使えるように進化している。これも、画面が小さい場合に有効だろう。

■アプリ開発者にとっての魅力も向上

 アプリ配信マーケットである「ウィンドウズ・ストア」はデザインを一新した。従来はカテゴリー別の表示となっており、人気のアプリや話題のアプリが見つけにくかった。ウィンドウズ8.1では新しいアプリや売れ筋のアプリが分かりやすくなっており、新たなアプリに出会いやすくなっている。

 これはすなわち、アプリを開発する側にとっても、収益を上げやすくなるということであり、結果として優秀なアプリが集まりやすい環境にもつながる。マイクロソフトとしては、アプリを作ってくれる開発者は生命線といえる存在。

 そのためにも、いかにアプリをダウンロードしやすい操作性にして、アプリ開発者が儲かり、さらにアプリが集まることで、デバイスの魅力を高めるということをしなくてはいけない。ここに来て、マイクロソフトもアプリ環境の改善に本気になってきたのかもしれない。

 ウィンドウズ8.1プレビュー版を使い始めたばかりだが、これまでウィンドウズ8を使っていて「モヤモヤ」とストレスがたまっていた部分が着実に改善されている点は評価に値する。最近になって、インテルが新チップの第4世代「コアi」(開発コード名ハズウェル)を搭載した魅力的なパソコンやタブレットが次々と登場してきて、ウィンドウズパソコンに再び注目が集まりつつある。年末のウィンドウズ8.1の登場により、小型タブレットへの可能性も広がることから、ウィンドウズ陣営にとってはさらなる追い風になりそうだ。
<< ジャーナリスト 石川 温 >>

nikkei.com(2013-06-27)