隕石衝突は避けられるか 無人機で軌道そらす案も

 ロシア南部チェリャビンスク州に落下した隕石(いんせき)は負傷者1200人を超える被害を出した。隕石の正体は直径17メートル、重さ1万トンに及ぶ小惑星とみられるが、なお謎が残る。このサイズの小惑星が地球に落ちるのはおよそ100年に一度。衝突を回避したり、被害を減らしたりする手立てはあるのか。

  「レンガ造りの工場が崩れたのは、砕けた隕石の一部が直撃した公算が大きい。だが負傷者やガラス窓の破損など被害の大半は衝撃波が原因だろう」(東京大学の杉田精司教授)

 今回の被害について専門家の見方はほぼ一致する。

 米航空宇宙局(NASA)によると、隕石は音速の50倍の時速6万5千キロメートルで大気圏に突入。空気との摩擦で表面がセ氏数万度に上がり、一部が燃えながら強い閃光(せんこう)を放った。突入から32秒後にいくつかに砕け、地表に落下する直前まで衝撃波を出し続けたとみられる。

 衝撃波は物体が音速を超えると生じ、周囲の空気の圧力が急変して強いエネルギーの波が広がる。2003年に退役した超音速旅客機コンコルドやジェット戦闘機も衝撃波を出し、地上のガラス窓を割ったことがある。今回の隕石は浅い角度で長距離を飛び、被害が広い範囲に及んだ。

 杉田教授の試算では、今回の隕石による衝撃波は1平方メートル当たり300〜500キログラムの力に相当する。鼓膜を破るほどではないが、ガラス片などが間接的に人を傷付けた。「隕石があと少しでも大きかったら、死者が出ていただろう」と杉田教授は危ぶむ。

 衝撃波のエネルギーは隕石の重さにほぼ比例し、直径が2倍になると衝撃波は8倍(2の3乗)に増す。1908年、ロシア・ツングースカ川の上空で直径50メートル前後の彗星(すいせい)とみられる天体が爆発したときには、衝撃波が約2000平方キロメートルの森林をなぎ倒した。「同じサイズの小惑星が都市を直撃したら、壊滅的な被害が生じ、それを防ぐ手立てはない」と専門家は口をそろえる。

 ならば、地球に接近する天体を事前に見つけ、警報を出せないか。その場合、どれくらいのサイズの天体なら発見できるのか。

 先進国の宇宙機関は1990年代から小惑星の監視を強めてきた。国内ではNPO法人日本スペースガード協会が国の支援を受け、岡山県井原市に専用の望遠鏡を設けた。米国もハワイの天文台を拠点とする「パンスターズ計画」を始動させ、世界で十数カ所の天文台が夜空をにらむ。

 日本スペースガード協会によると「直径40メートル以上の小惑星なら発見の可能性はある」。実際、16日未明(日本時間)に地球に近づいた小惑星「2012DA14」は直径45メートル。スペインのラ・サグラ天文台が昨年2月、地球から430万キロメートルのところにあるのを見つけ、軌道を割り出した。

 ただ同天文台が「見逃していた可能性もあった」と報告しているように、この発見は幸運にも恵まれた。DA14は夜明け前の空で見つかったが、太陽と同じ方角なら空の明るさにまぎれて発見が難しいからだ。

 宇宙航空研究開発機構の吉川真准教授は「数十メートル級の小惑星探しに躍起になるより、もっと甚大な被害が出る数百メートル以上の小惑星を確実に見つけ出すことが重要だ」と訴える。

 もし、そうした小惑星が見つかったら、衝突を避ける策はあるのか。

 小惑星を核爆弾などで壊す方法は、破片が地球に降り注ぐ恐れがあり、現実的ではない。「技術的に有望なのは、地球に衝突する10〜20年前に小惑星を見つけ、無人の探査機をぶつけて軌道をそらすこと」と吉川准教授は話す。

 重い小惑星に軽い無人機をぶつけるのは、カボチャを豆鉄砲で撃つのに似る。直後は小惑星はびくともしないが、長い時間をかけて軌道がそれ、衝突を回避できる可能性があるという。

 ただこの方法もジレンマを抱える。小惑星が大きいほど事前に見つけやすくなる。半面、より大型の無人機が必要になるからだ。

 都市ひとつが壊滅しかねない百メートル級の小惑星が地球に衝突するのは、数千〜数万年に一度とされる。いまの科学技術の水準では、その日が来ないことを祈るしかないのかもしれない。
(編集委員 久保田啓介)

nikkei.com(2013-02-24)