EV普及へ最後のチャンス? “大盤振る舞い”でも課題山積

 官民が盛んに笛吹けど遅々として普及が進まぬ電気自動車(EV)。しびれを切らしたかのように、経済産業省は今年度の補正予算にEVの購入支援策や急速充電器などのインフラ整備に1000億円もの補助金をつけるなど躍起だ。こうした“大盤振る舞い”は奏功するのか。EVの普及には越えなければならない課題が山積している。

 経産省は補正予算でEVなどの充電器の整備費として1005億円を盛り込んだ。さらにEVの購入補助として2013〜15年度の間、EVの車両価格の目標を決め、これを下回れば同クラスのガソリン車との差額分全額を国が補助する制度も創設した。

 「これが最後のチャンスかもしれない」。10年末に発売したEV「リーフ」の累計販売台数が5万台にとどまる日産自動車。16年度までに仏ルノーと合わせた販売目標150万台を掲げる日産にとっては一連の政府補助は“慈雨”のはずだが、スタッフの表情はさえない。手厚い補助を受けているからにはそれなりの「実績」を求められるからだ。

 EVの短所として指摘されるのが、ガソリン車と比較して短い航続距離と、充電インフラの不足や充電時間の長さ、さらには割高の車体価格だ。

 これらの欠点をカバーするために経産省は、充電スタンドを14年3月までに全国に約10万基整備する。そのうち、現在は全国で1400基しかない急速充電器を3万5700基普及させるとした。これまでは充電器本体への購入支援だったが、設置工事費も補助対象に含めた。さらに日産もリーフの価格を引き下げ、補助金を入れると最も安いタイプで250万円を切る価格にした。

 販売店の店頭などでEVの印象を聞くと「地球温暖化のために大いに評価する」との声は多い。また日々の燃料代(電気自動車の場合は電気代)を含めて考えると初期購入費用に割高感があっても「1回の満タン充電がコーヒー代1杯分で済むことを説明すると『お得感はある』と理解してもらえるお客様は増えている」(日産)という。

 ただ、普及の足かせとなっている問題はもっと身近にある。最大のネックは潜在的な購買層が多い都心部・大都市圏、なかでも多くの人が住む集合住宅での充電器の普及がままならないことだ。日産によると、EVの普及が進むのは累計販売台数順に神奈川県(約3900台)、次いで東京都(同2600台)、愛知、福岡、埼玉、大阪などの大都市圏(12年11月末時点)。集合住宅比率も東京都の71%を筆頭に埼玉県でも44%と高い。

 日産も三井不動産や大京など大手デベロッパーと提携し、マンション内に充電器を標準設置するよう働き掛けているが、なかには「全く利用実績がない」(関係者)マンションもあるという。特に問題となっているのは既築マンションに充電器を設置する場合。共用部分に設置することが多いため、マンションの管理組合の過半数、大規模改修の場合は3分の2以上の同意が必要になる。

 現時点ではEVユーザーが少数であるため、「一部の受益者のためにマンション住民全員がコストを負担することへの合意形成が難しい」(日産)という。ただ、従来では困難と思われていた既築マンションへの充電器設置でも、形態によっては30万〜40万円で設置可能なケースも多く見受けられる。しかも国の補助を使えばその2分の1が補助されることから「自己負担での設置も十分可能になってきている」(日産)という。

 リーフを通じて「ゼロ・エミッション社会」の実現に果敢に取り組む日産などの姿勢に異議を唱える消費者はいないだろう。ただ、崇高な理念と普及の間には大きな壁がある。2年後には水素と酸素を反応させ、その際に発生するエネルギーを動力源とする「究極のエコカー」、燃料電池車(FCV)が市販される。EVから学んだことをうまく生かしながら、どう普及させていくか。メーカーの枠を超えた知恵の出しどころだ。
(産業部 藤本秀文)

nikkei.com(2013-02-18)