岐路に差し掛かるEVのテスラ


テスラのモデルS

 カリフォルニア州マウンテンビュー在住の特許弁護士であるボイドさんは最近、テスラのモデル「S」(価格10万1000ドル、約953万円)を購入するため、5000ドルの手付け金を支払った。同社はモデルSによって同社を黒字化させ、他の新興EVメーカーと同じ不運を繰り返さないですむことを期待している。

 ボイドさんがこの車に関心を持ったのは、「環境面で優れている点だ」という。ボイドさんは「よりサステナブル(持続可能)な車の最先端を試してみたい」と語った。

 しかしボイドさんは同時に、BMWなどのように、地をはうようなステアリングとスピードも気に入っていると言い、「とてもかっこいい」と話した。

 投資家たちは、テスラが数週間後に2012年第4四半期の決算を発表する際、モデルSでどういう実績を残したかに注目するだろう。モデルSは最初から最後まで同社が設計した初のEVだ。最も注目されるのは、同社が現在週ごとに何台のモデルSを生産しているかになろう。同社は昨年10月の時点で1週間に200台を生産していたが、収支トントンに持っていくためには週に少なくとも400台生産する必要がある。

 同社はこれまでに何台を顧客に引き渡したかを明らかにしていないが、12年末までに約3000台を販売することを計画していた。5000ドルの手付け金を支払った顧客は、これまでに1万3000人以上に達している。

 テスラは10年の新規株式公開(IPO)以降、全ての四半期で損失を計上しており、同社を懐疑的に見る人は多い。12年第3四半期には5000万ドルの売り上げで1億1100万ドルの純損失を計上した。同社は昨年10月に株式の売り出しで1億9300万ドルを調達している。

 ボストンに本拠を置く投資調査会社サイバス・リサーチのシニアアナリスト、ジョシュ・ノーマン氏は、第4四半期が「カネを見せる(収益上の実績を示す)必要のある四半期」になろうと指摘した。同社はテスラ株を保有していない。同氏は同期の決算が「のるかそるかの四半期になる」と語った。

 テスラは、インタビューを受けるのを拒否した。

 同社は昨年12月、2週間のモデルSの生産台数が年率換算で2万台、1週間当たり400台に達したことを明らかにした。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はロイター通信に対し、「今年中に四半期ベースで黒字を計上できるよう期待している。できなければ残念だ」と話した。テスラはこの発言内容を認めた。

 テスラが注目されているのは、EV需要が予想より少なく、いくつかの新興企業や上場企業が事業撤退を余儀なくされているためだ。またテスラはエネルギー省から4億6500万ドルの融資を受けているためでもある。1920年以降、新興の自動車メーカーが米国市場で生き残った例はない。

 一部の投資家はテスラが成功しない方に賭けている。カディアン・キャピタル・マネジメントやバークレイズなど、いくつかの投資ファンドは同社株が下落するとみて、同社株をかなりのショートポジション(売り持ち)にしている。

 ウォール・ストリート・ジャーナルがナスダックのデータを分析したところ、昨年12月末の時点で、売り持ち状態になっている同社株の比率は全発行済み株式の24%近くに及んでおり、同社株はナスダックで最も空売りされている株の1つになっている。

 投資家は株をショート(空売り)にする際、株式を借りて売る。その後株価が実際に下がれば、より安い価格で株式が購入でき、それを借入先に返還して利益が得られる。

 それでもテスラはドイツのダイムラー、日本のトヨタ自動車、それにパナソニックなどからの投資によって支えられている。

 モルガン・スタンレーの自動車担当アナリスト、アダム・ジョナス氏は、テスラに期待を寄せている人物の1人だ。モルガン・スタンレーはテスラ株の投資判断を「買い」とし、同社株が向こう12カ月で8日の終値39.24ドルから47ドルに上がると予想している。同社株価は昨年秋以降40%上昇している。モルガン・スタンレーの情報公開によると、同社はテスラ株の1%以上を保有している。

 ジョナス氏は「今後数カ月でテスラが持続可能な企業かどうかが分かるだろう」と述べ、「この(サクセス)ストーリーを信じるか否かだ」と付け加えた。

 テスラは03年の創業で、その1年後にマスク氏からの巨額の投資を受けた。マスク氏は決済サービスのペイパルの共同創業者として巨万の富を築いた。

 同社は08年にテスラ・ロードスター(価格10万9000ドル)の販売を開始した。これは英ロータスのスポーツカーを修正したモデルだった。

 モデルSの最も基本的な型は価格が6万ドル足らずで、1回の充電で160マイル(約256キロ)走行できるとみられている。他の大半のEVの約2倍だ。またモデルSのコンソールには17インチのタッチスクリーン式ディスプレーが搭載されており、自動で格納できるドアハンドルがついているほか、4.4秒で時速60マイル(約96キロ)にまで加速できる。

 モデルSは業界誌「モーター・トレンド」の2013年のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。ただしテスラは部品供給の遅れを理由に、生産台数の引き上げに予想以上の時間がかかっている。

 冒頭に紹介したカレン・ボイドさんも、モデルSの所有にためらいはない。ボイドさんは1回の充電で265マイル走れるとされるモデルを選択した。あと2カ月は納車されない見通しだが、ボイドさんは既に「KARNS S」というバニティープレート(車の持ち主が選んだ飾りプレート)を選んでその日を待っている。

jp.wsj.com(2013-02-12)