ホンダ、来期担う北米3兄弟の走破力

 不安と期待が交錯――。ホンダが31日に発表した決算を簡単にまとめると、こんなところだろうか。2012年10〜12月期の連結純利益(米国会計基準)は774億円と前年同期比62%増えたが、事前のアナリスト予想の平均(QUICKコンセンサス)の1000億円強には届かなかった。13年1〜3月期も利益回復の足取りは鈍いが、経営陣からは「13年暦年に前年比15%多い440万台の世界販売を目指す」(岩村哲夫副社長)と威勢の良い発言が飛び出した。強く、そして稼ぐホンダは14年3月期に戻ってくるのだろうか。

 10〜12月期の営業利益は3倍近い1319億円となった。タイ洪水の反動で、北米や東南アジアを中心に新車販売が伸びた。販売台数の増加で812億円、コスト削減で322億円、為替の円高修正で125億円の増益要因がそれぞれ発生し、利益を押し上げた。誤算は円高修正があまりに急だったことだ。12月末の実勢レートで、それ以前の為替予約を時価評価したところ530億円もの評価損が生じ、営業利益に比べて純利益の伸びは小さくなった。

 1〜3月期の予想営業利益は前年同期比横ばいの1111億円。想定為替レートを1ドル=85円(10〜12月期実績は1ドル=81円)へと変え、世界販売も増えるにもかかわらず、数字は控えめだ。利益の回復力が失われたかのようにも見える。記者会見でこの点を問うと、池史彦専務は「(季節要因で)10〜12月期とは販管費の段差が400億〜500億円ある。研究開発(R&D)も加速している」と述べ、1〜3月期の予想営業利益が実力値より低いと認めた。記者会見後、改めて「(四半期営業利益の)実力値は1700億〜1800億円か」と問うと、「そこまではいっていない」との答えがかえってきた。アナリストの中には実力値を1600億円とみる人もいる。

 10年7月末、近藤広一ホンダ副社長(当時)は同様の議論になったとき「1ドル=90円で1300億〜1500億円というところだろう」との認識を示したことがある。直近の実力値について現経営陣から明確な数字は得られていないが、新型車の投入やコスト削減努力の結果、少なくとも1ドル=85円前提でも四半期で1500億円前後の営業利益が出る体質になっているとはいえそうだ。

 この数字は14年3月期の業績を占う上で参考になる。来期の世界販売計画が13年暦年(440万台)と大きく変わらないならば、13年1〜3月期の世界販売計画(107万9000台)はそのほぼ4分の1。仮に年間の為替レートが1ドル=85円でも、14年3月期通期の営業利益は今期の会社予想(5200億円)に比べ15%増の6000億円前後となる。為替感応度を考慮すると、1ドル=90円であれば7000億円に迫ってもおかしくない。1日現在、QUICKコンセンサスの14年3月期の予想営業利益は8000億円強とさらに上にあり、ホンダの収益力が今後も上がっていくという期待の大きさを映している。

 期待の最大の根拠は主戦場、北米での品ぞろえの強さ。セダンの「アコード」と「シビック」は新型に切り替わったばかり。多目的スポーツ車(SUV)「CR―V」も発売からまだ1年あまりしかたっておらず、これら「3兄弟」の競争力は高い。13年は高級車ブランド「アキュラ」で売れ筋のSUV「MDX」などの刷新も控えている。新型車が出ると、値引き費用である販売奨励金(インセンティブ)の負担が減り、利益が出やすくなる。経営陣も「来期は北米中心に新車効果がフルに効いてくる」(池専務)と強調した。

 不安は中国か。当初75万台の目標を掲げた12年の中国販売は尖閣問題で夏以降に急減速し60万台強にとどまった。岩村副社長は改めて13年に75万台を目指す考えを表明したが、反日デモ後の販売回復は当初想定より遅れており、不透明感が残っている。欧州も相変わらず厳しく、ホンダの販売も低調だ。それでも440万台という過去最多の販売目標を掲げたことに、リーマン・ショック後に再起をかけて開発してきた新型車に対する経営陣の自信のほどがうかがえる。

 1日の東京株式市場でホンダ株は前日比10円高の3515円で取引を終えた。前日の決算発表は可もなく不可もなしといったところか。震災、タイ洪水、尖閣問題と事あるたびに大きな影響を受けてきたホンダの真の稼ぐ力を市場は見定めようとしている。
(小谷洋司)

nikkei.com(2013-02-04)