東南ア、最低賃金引き上げラッシュ 主要都市4割増

 【ジャカルタ=渡辺禎央】好調な個人消費と投資を追い風に経済成長が底堅い東南アジアで、賃金引き上げの波が広がっている。インドネシアやタイの主要都市では政府が2013年の最低賃金を前年比で4割以上引き上げる。購買力を高めて成長を維持する狙いだ。消費増の恩恵を得られる企業が出てくる半面、最低賃金がインフレ率の10倍近く上昇することで事業の採算性や物価の制御に混乱をもたらす可能性もある。

 インドネシアの主要都市では24日までに、来年1月発効の最低賃金がほぼ出そろった。ジャカルタは前年比44%増の月220万ルピア(約1万8700円)へと急増。これまでは数%から10%台の伸びで、当面のインフレ率も4%台にとどまる。

 「この決定を歓迎する」。イスカンダル労働・移住相はジャカルタ州政府を持ち上げ、経営者側をけん制した。

 工業団地が多い西ジャワ州でもボゴール県が前年比で7割強上がるほか、トヨタ自動車などが主力工場を置くカラワン県でも6割近く上昇する。同州などでは業種別の最低賃金も年内に決定。都市ごとの最低賃金に上乗せされるため、賃金上昇の増幅は不可避だ。

 ◆度重なるデモ 賃上げは労働者らによる度重なるデモなどに押された格好。インドネシアでは富裕層や外資メーカーが消費の活況を享受する一方、労働者が待遇改善に実感を持てずにいる。従来は低賃金を売りに外国企業を引き付けてきた政府も内需振興を急ぎ始めている。

 タイではインラック政権が4月、バンコクなど7都県の最低賃金を1日300バーツ(約780円)に改定。今月には残る70県も来年から一律300バーツに引き上げると決めた。今年3月末比で4〜9割の上昇となる。  ベトナム政府も一般労働者の最低賃金について、来年1月の引き上げを検討中。外資企業が集積する首都ハノイ市やホーチミン市では月270万ドン(約1万円)へと35%上昇する可能性がある。

 マレーシアでは最低賃金制度を来年1月に初めて導入する。首都クアラルンプールがあるマレー半島で月額900リンギ(約2万4千円)。ナジブ首相は「政府から全労働者へのプレゼントだ」と政策転換をアピールする。約300万人の外国人労働者も対象だ。

 ◆消費喚起も狙う 賃金引き上げの背景には各国それぞれの事情もある。インドネシアでは国内総生産(GDP)の55%を家計消費が占める。世界景気の減速で資源輸出が縮小するなか、好調な消費が6%台の経済成長の原動力。2億4千万の人口を抱えて雇用を維持するためにも、消費を喚起し6%超の成長を死守する必要がある。

 輸出がGDPの7割を占めるタイは、成長の基盤を内需に転換させることが政策課題。先進国の需要減速の打撃を受けた08年のリーマン・ショックなどへの反省もある。

 最低賃金の急騰について、インドネシア経営者協会のワナンディ会長は「中小企業や縫製・製靴など労働集約型産業では、大量解雇や撤退が避けられない」と警告。ベトナム日本商工会も当局に異議を申し立てた。「生産コスト増のマイナス面を、所得向上による需要増のプラス面が上回る」(タイ消費財大手首脳)との声もあり、進出外資は事業運営で慎重なかじ取りを迫られる。

nikkei.com(2012-11-25)