ホンダが「AKB44」結成 新車投入期間を3割短縮

 ホンダは、開発と生産が組む“AKB44”を結成したことによって、新製品の開発から量産化までの期間を指す「DLT(ディベロップメント・リードタイム)」を3割縮めることに成功した。

 人気アイドルグループ「AKB48」の活動拠点は東京・秋葉原だが、ホンダのAKBの舞台は熊本。そこには、中大型を中心に2輪車を作る国内で唯一の工場、熊本製作所(熊本県大津町)がある。

 この生産工場に、2輪の開発機能が加わった。これによって、既存車種のモデルチェンジの期間を3割縮めた。一般的にセッティングなども含めるとモデルチェンジには1年以上かかるため、それが8カ月ほどになる計算だ。短い月日で濃い議論をしてタイムパフォーマンス(時間当たりの効果)を上げ、消費者の求める商品作りや高い生産効率につなげている。

熊本に本拠地を置く独自のAKB

 ホンダは2010年10月、本田技術研究所二輪R&Dセンター(埼玉県朝霞市)の分室を熊本製作所に置いた。名前は「AKB(朝霞・熊本・分室)」。当初は29人が所属しており、今では44 人にまで増えた。AKB48とは何の関係もないが、若手を中心に一度聞いたら忘れられない名前。社内交渉などに、このネーミングが威力を発揮している。

 もともとホンダはR&D(研究開発)部隊の独立心が強い。にもかかわらず熊本にAKBを置いたのは、2輪車を取り巻く厳しい環境があったからだ。なかでも国内の落ち込みは激しく、2011年の2輪車の販売実績(台数ベース)は2007年と比べて6割強の水準にとどまった。特に大型2輪車は価格が割高だったり、商品を市場に投入するタイミングがずれていたりしたため、売れ行きが鈍っていたという。

 こうした状況を打開するために「リーズナブルな商品をタイミングよく市場に投入できる体制が欠かせない」(ホンダの渡部勝資執行役員熊本製作所長)と判断した。そこでAKBの結成に動き、さらに部品の購買も工場に任せることでDLTを縮めていく。

 その成果の1つが、2012年2月に発売した大型2輪車「NC700X」。部品の海外調達比率を40%に高め、価格を60万円強に抑えた。性能とスタイルにこだわり、バイク愛好者から人気を博している。

 新製品投入の陰には、地道な施策の積み重ねがあった。例えば、開発と生産の間には「グレーゾーン」があるという。設計図面を生産に移す際に生じる課題を指す。これまでは開発と生産が離れていたため、デジタルカメラで撮影した写真をやり取りするなどして、グレーゾーンをつぶしていた。量産化までの各フェーズで開発と生産などが集まる場を何度も設けていたが、どうしてもリードタイムが長くなりがちだった。

 それがAKBを熊本に置いたことで「自転車で行き来できる距離にいて直接話せるため、すぐに課題を取り除けるようになった」と本田技術研究所二輪R&Dセンターの藤田茂久熊本分室マネージャー主任研究員は話す。一気にグレーゾーンが減ったわけだ。

3週間かけてのあいさつ回りでチーム結束

 とはいえ、AKBを熊本に置いた当初からうまくいっていたわけではない。取り組みを軌道に乗せるためには、課題があった。開発と生産の心の壁を取り除くことだ。勤務場所は同じでも、これまでお互いに独立心があっただけに信頼と協力関係を築くには努力が要る。

 まず藤田マネージャーは熊本に赴任して、3週間かけて生産の各部門にあいさつ回りをした。生産部隊は、開発部隊を「上から目線の人たち」(藤田マネージャー)と捉えがちだ。そんな感情を抱かせないように、女性アイドルグループのAKB48にちなんで、「AKBが熊本に来ました」と話して回ったという。またオートバイの耐久レースなど熊本製作所の恒例のイベントにも参加するなどして、心の“握手会”を続けた。

 さらに仕事においては、生産現場から設計の問題点を挙げてもらい、優先順位を付けたうえで開発陣が解消していく手法を用いた。問題点は数千件に上り、A4版ファイルで厚さ3cmにもなった。例えばハンドルを取り付ける工程で、ボルトを締める回数を4回から2回に減らすなどした。

 一連の施策によって、AKBは定着した。熊本製作所の久野雅哉完成車組立モジュールモジュールマネージャー技師も「開発部隊と信頼関係をきちんと築けている」と自信を持って語る。

 ホンダは今、2輪車の成功を4輪車にも広げようとしている。既に4輪車の生産拠点である鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)のスタッフが、熊本に何度も視察に来ている。AKBは全社のタイムパフォーマンスの象徴になりつつある。(日経情報ストラテジー 山端宏実)

nikkei.com(2012-11-19)