ホンダ、雇い止めより雇用維持 二輪で国内初一時帰休

ホンダは国内工場では初めてとなる一時帰休を11日から始めた。二輪車を生産する熊本製作所(熊本県大津町)の約130人の期間従業員が対象で、休業は3カ月間とする。新型コロナウイルスの影響で輸出先の欧米市場でバイク需要が落ち込んでおり、生産調整する。従業員との契約満了時に更新しない選択肢もあったが、今秋以降の新車生産や需要回復後を考慮。その裏ではかつて問題となった「雇い止め」への配慮もにじむ。


「東日本大震災時でも一時帰休は実施しなかった」。ホンダ関係者は今回の決断を受け、こう振り返る。2011年3月の震災発生後、部品調達難や電力不足への懸念から、国内の乗用車工場で働く従業員を対象に一時帰休を検討した。夏ごろに行う方向で調整していたが、最終的に実施を撤回した経緯がある。

一時帰休は給与の一定額を企業が支払い、雇用契約も維持される。熊本製作所での一時帰休はホンダにとって、国内の正社員や期間工を通じて初めての動きとなる。期間工と3カ月ごとに契約を更新しており、今回は同製作所にいる数百人の期間工のうち、5月末で契約期間が終わる約130人を対象とする。

一時帰休による休業期間は8月末までの間の3カ月を計画する。5月中に対象の期間工と一度契約を更新し、9月以降も契約を維持することを前提に休んでもらうという。対象者にはホンダが給与の約9割を手当てする予定だ。

熊本製作所では欧米向けに高価格帯の二輪車を製造。ただ新型コロナの影響で現地での販売は落ち込み、現時点で市場の先行きも見通しにくい。そのため、需給の引き締めも狙い減産に踏み切る。


5月末で契約解除もできたのになぜ契約更新と一時帰休を決めたのか。1つは21年に発売する新機種の生産が今秋以降に控えているため。夏以降に期間工を再度採ることもできるが、経験豊富な熟練工の存在は大きい。コロナ後の需要回復も見据えた形だ。

08年秋のリーマン・ショック後に社会問題化した「雇い止め」や「派遣切り」も意識したようだ。当時、世界的な需要減を背景に自動車を含めた製造業が軒並み雇用調整し、製造現場で働く期間従業員や派遣社員が大量に失業した。もの作りで「ヒト」の重要度は変わらないなか、「このタイミングでの雇い止めは企業イメージが悪化する」(幹部)との判断もあった。

業界団体が発表した4月の国内新車販売台数(軽自動車含む)で、ホンダは前年同月比19.5%減った。下落幅は全体(28.6%減)より小さかったが、販売減は乗用車工場の生産にも影響を及ぼす可能性が高い。環境変化に対応しつつ雇用を守る姿勢に注目が集まる。
(企業報道部 原欣宏)

nikkei.com(2020-05-22)