新型コロナ、高温多湿に弱いのか 熱帯の医師の見解は?

 「新型コロナウイルスは太陽光や熱、湿度に弱い」。米ホワイトハウスは先日、まだ検証が終わっていない段階としながら、そんな内容の発表をした。一方で、日本の夏をしのぐような高温多湿の環境がある東南アジアの熱帯地域では、いまも感染拡大が続く。たとえば人口約570万人のシンガポールでは、感染者が4月30日正午時点で1万6169人、死者は15人。感染者数は日本を上回っている。

 熱帯地域で治療にあたる専門家はどう見ているのか。赤道近く、いまも気温30度前後、湿度80%の日々が続くシンガポールで専門家に尋ねてみた。電話取材に応じてくれたのは、シンガポールの拠点病院のひとつ、マウントエリザベス・ノベナ病院で感染症を担当するレオン・ホーナム医師(49)だ。

 ――米国で、太陽光や熱、湿度が高い環境が新型コロナウイルスを退治するといった発表がありました。

 「『ウイルスをやっつけてしまう』というような言い方は正しくありません。簡単に言えば、こうした環境ではウイルスが機能するのが少し難しくなるということです」

 ――コロナウイルスは紫外線や熱、湿度によって消滅するんでしょうか?

「違います。ある環境においては機能する期間が短くなるというだけです。人間にたとえれば、80年生きていた人が、60年で亡くなるようなイメージです。そして生きている60年間は、十分に人を死に追いやるだけの力があるということです」

 ――こうした環境は感染を広げるウイルスの機能を止めはしないが、機能する期間は少し短くなるということですね。

 「そういうことです」

 ――ほかのウイルスもそうなんでしょうか?

 「インフルエンザウイルスなどは同じですね。一方でこれは細菌ですが、『百日ぜき』を起こす菌などのように暖かい時期に活発に活動するものもあります。そう考えると、新型のコロナウイルスは、より寒冷な環境を好む部類だと言えると思います」

 ――感染を減らすにはなにが効くと考えればいいのでしょう? 紫外線なのか、熱なのか、湿度なのか?

 「まず紫外線の環境についてですが、紫外線はコロナウイルスを退治するかもしれません。しかし、たとえばウイルスがほこりの下についているような状態なら、効果はありません。つまり紫外線でコロナウイルスに対応しようと思えば、それが完全に紫外線にさらされる状態にしなくてはいけません」

 ――熱でウイルスを退治することはできないんでしょうか。

 「80度の熱を15分加えれば、ウイルスは壊れると言えるでしょう」

 ――シンガポールの気温程度ではだめだということですね。

 「その通りです」

 ――湿度については?

 「私自身は、そこまで大きな差はないと考えています。高湿度の環境では、数時間早く機能をなくすかもしれません。しかしそれはウイルスが機能する期間全体から考えれば、一部縮まったというだけだと思います。逆に言えば、残りの期間は機能しているということです」

 ――シンガポールでは軽症者が多いのですが、それは環境のせいだと言えるでしょうか?

 「そうではないでしょう。シンガポールでも高齢者施設での感染例があって、そこでは死亡例が出ています。つまり死者が少ないのは、そうした高齢者が早い段階で感染から守られていたということだと思います。新型コロナ感染症は、高齢者に比べると若い人が死亡する可能性は高くありません。つまり死者数は、どんな人が感染したかによるんです。

 シンガポールの場合、現状では(建設作業などにつく)外国人労働者が感染例のほとんどを占めています。こうした労働者たちは体力がある人が多いでしょう。結果として死亡する可能性が低いのです」

 ――北半球がこれから夏になると、感染が大幅に減るという見方は、正しくないということですか。

 「そうですね。状況によってはコントロールしやすくなるとは思いますが、感染は引き続き起こるのではないでしょうか。いくらかは減ると思いますが、大きく減りはしないと考えています。

 見ての通りシンガポールではこれだけ多くの感染者が出ています。インドネシアもそうですし、その他の東南アジアの国でもそうです。つまりこの温暖な気候であっても、すでに多くの感染者が出ているんです。

 確かにもっと寒冷だったら、さらにひどかったかもしれません。しかし、たとえ熱帯の環境下でウイルスの広がりが多少難しくなるとしても、新型コロナの感染は生じるということです。

 ですから太陽光や熱、そして湿度がなにかを解決すると思わず、環境がちょっと『手助け』をしてくれるぐらいに考えてください。環境が問題を解決してくれることはありません」

 ――米国では、いま思われているよりも無症状の感染者が市中にいるのではないかという報告も出てきました。

 「それには賛成できます。データによりますが、全体の30〜78%が無症状だという報告があります。こちらの科学者たちは、だいたい全体の50%ぐらいが無症状だろうとみています。

 私たちは無症状の人の場合、感染してから7〜10日間は他人への感染力があるとみています。さらにそこから3〜4日はまだ症状が出る可能性がある。ですから一般的に感染は14日間と言っているのです。もしその間になにも症状がなかったら、ウイルスは単に体の中で滅んだということですね」

 ――そうすると、人間ができることはどういうことでしょうか?

 「距離を置くということです。それが新型コロナの感染を防ぐ最も安全で、最も簡単な方法です。もし感染したら、他人から距離を置くということです。多くの場合は2〜3週間すれば、ウイルスは体の中で滅んでしまい、ほかの人に広げる心配はなくなります。ですから家にいなさいということ。誰にも会うな、ということ。非常に単純です」(シンガポール=西村宏治、ウン・チュンキアット)

asahi.com(2020-05-02)