コロナ禍はいつ収まるのか 京大・山中氏が出した答え


安倍晋三首相は7日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため緊急事態宣言を発令しました。対象地域は東京を含む7都府県(神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)で、期間は4月8日から5月6日までの約1カ月です。

1カ月という期間を長いと感じるか短いと思うか、捉え方は人それぞれでしょう。確実に言えるのは、このウイルスは人間の都合など全くお構いなしだということ。暖かくなれば感染拡大のペースが落ちるのではないかという、当初の楽観論も最近は聞かれなくなりました。では、新型コロナの影響は一体いつまで続くのでしょうか。

「新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです」──京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授・所長は自ら立ち上げたサイトで、こう指摘しました。ランナーでもある山中教授が「マラソン」という言葉を使った真意を、私なりにデータを基に考えてみました。世界の感染データを検証すれば、今後の趨勢がある程度予測できるからです。

■「現感染者数」最も多い米国

感染症分野でも実績のある米ジョンズ・ホプキンズ大学のデータによると、全世界で感染者の累計は120万人を突破、死亡した人も6万人を大きく超えています(4月5日13時時点)。同大学のデータは、リカバーした人(治療を終えた人)の数も網羅している点が特徴です。

そこで、国別に感染者数が現在どれくらいいるかを試算しました。計算式は「累計の患者数」−「リカバーした人数」−「死亡した人数」=「現感染者数」とします。同大学では、これを「Active cases(アクティブケース)」と定義しています。次の表は、4月5日時点における現感染者数を国別に並べたものです。


現感染者数が世界で最も多いのは米国の28万9798人でした。死亡率は2.4%と世界平均(5.4%)より3ポイント低いものの、治癒率が4.8%にとどまっているのはまさに今、感染が爆発的に増えている証拠でしょう。トランプ米大統領は3月31日、厳しい行動制限などの対策を打ったとしても米国内の死亡者数が最終的に10万から24万人になるとの見通しを発表しました。

米国に次いで現感染者数が多いのはヨーロッパ諸国です。2週間ほど前から感染が爆発的に広まったイタリアとスペインが8万人台、その下にドイツとフランスが6万人台で並びます。これらの国はまだまだ予断を許しませんが、治癒率が10%から20%台の後半になっている点が米国と大きく異なります。医療体制が整ってくれば、現感染者数も少しずつ減っていくはずです。

■既に日本と中国が逆転

私が注目したのは中国のデータです。新型コロナウイルス感染症の発生国であり、累計の感染者数は8万人を大きく超えているにもかかわらず、現感染者数は2116人にとどまります。この数は日本の現感染者数(2548人)よりも少なくなっているほどです。

「中国の統計データは信用できない」と考える人は少なくありません。気持ちは分かりますが、国際的に見れば日本の検査数が少ないことも否めない事実です。そもそも国民全員を対象に、新型コロナに感染の有無を調べるPCR検査をすることは物理的にも経済的にも不可能であり、検査品質を世界で統一することもできません。結局、各国政府が公表しているデータを「正しい」と信じるしかないのです。

中国に関して間違いなく言えるのは、感染防御に向けて世界のどの国よりも厳しい措置を取っているということ。感染の発生源である湖北省武漢市は1月23日から封鎖(4月8日に76日ぶりに封鎖が解除)。北京や上海など国際都市も含め、海外から来た人は外国人であっても強制的に2週間隔離しています。

中国ではスマートフォンの位置情報を使って、感染の疑いのある人が今どこにいるかを示すアプリまで登場しました。先進国であればプライバシーの侵害だと大問題になるのは必至です。そうした批判も顧みず強権を発動できるのが中国という国であり、感染防御という側面ではそれが効果的に働いたことは事実です。

■中国でも「第1波」乗り越えられただけ

では、中国は新型コロナウイルスを克服できたのでしょうか。次の図に中国における感染者数と死亡者数の推移をグラフで示しました。これを見れば、中国では感染のピークが過ぎたことが分かります。


ただし、感染者をゼロに封じ込めた状況とはなっていません。ピーク時は1日に1000人以上の新規感染者が発生していましたが、3月中旬から100人未満となり、下旬には1日の新規感染者数が10人から20人台の日が続いていました。ところが、3月末から再び100人を超える日が増えてきたのです。

中国政府は人民に対して厳しい外出規制を課してきましたが、3月に入ってから状況に応じて都市ごとに規制を緩めました。その結果、週末になると商業施設や観光施設が混雑するようになりました。感染の第2波がやってくるリスクが、ひたひたと高まっているのです。

世界保健機関(WHO)の基準ではウイルスの潜伏期間の2倍の期間、感染者が新たに発生しなければ終息宣言となります。新型コロナウイルスの潜伏期間は2週間とみられていることから、少なくとも4週間、感染者数がゼロにならない限り、ウイルスとの闘いは終わりません。

独裁的な中国共産党をもってしても、感染者数をゼロにするのは至難の業です。21世紀の世界では、人の往来を完全にシャットアウトすることは誰にもできません。

つまり緊急事態宣言を出して感染拡大の第1波を乗り越えられたとしても、新型コロナウイルスを完全に封じ込めるには相当長い期間がかかるのは(残念ながら)間違いありません。山中教授が「1年は続く」と指摘したのは、感染力の極めて高い新型コロナウイルスの本質を見抜いているからです。

もちろん、バイオテクノロジーを駆使すれば、効果的なワクチンや治療薬も開発できるでしょう。ただ、その未来がやってくるには年単位の時間がかかります。それまでの間、私たちは医療崩壊を防ぎながら、何とかしのいでいくしかありません。山中教授は、ウイルスとの闘いをマラソンに例えました。もはや、長期戦で臨むことを覚悟するしかありません。

日経バイオテク編集長 坂田亮太郎

[日経バイオテクオンライン 2020年4月7日掲載]

nikkei.com(2020-04-08)