新興国、高まる労務リスク 格差拡大で争議多発
好調日本企業、標的に

 スズキのインド子会社、マルチ・スズキの自動車工場で18日夜に発生した暴動は、日本企業が進出を急ぐ新興国での労務リスクを改めて浮き彫りにした。急速な経済成長を遂げるインドや中国などでは貧富の格差が広がり、賃上げを求める争議が多発している。現地で成功している日本企業ほど標的にされやすく、新たな対応が必要だ。

暴動が起きたのはスズキのマネサール工場(ハリヤナ州)。スズキによると18日朝、あるインド人従業員が班長から注意を受け、暴力を振るったのが発端だ。

■来月再開めざす

 工場の人事部が決めた停職処分の撤回を労組が要求。話し合いが続く中、一部の従業員が暴徒化。事務所などが放火されインド人の人事部長が死亡、約100人が負傷した。共産党系組織が計画的に扇動したとの見方もある。警察が調査中だ。

 年産能力65万台のマネサール工場の再開時期について、マルチ・スズキの中西真三社長は21日、「1カ月もかけるわけにはいかない」と述べ、8月の操業を目指す考えを明らかにした。

 今や労働争議は「どの新興国でも起きており、減ることはない」(東京海上日動リスクコンサルティングの青島健二氏)。ベトナムでは2011年に過去最高の978件のストライキが発生。今年6月には、福利厚生が手厚いことで知られるキヤノンのプリンター工場で賃上げストが起きた。

 自動車や二輪車の9割超を日本ブランドが占めるインドネシアでも、日本企業に矛先が向きやすい。10日には日本大使館前で100人を超える規模のデモが発生。日系工場に部品を納めるメーカーで解雇された社員の復職を訴えた。

 アジアなど20カ国・地域に進出する日系企業を対象に日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した調査(11年、3904社が回答)によると、経営課題として1位に挙がったのは「従業員の賃金上昇」(68.8%)で、前年比8.3ポイント増えた。

■朝礼めぐり摩擦

 ジェトロ海外調査部の若松勇課長は「アジアは労働力が豊富という印象があるが、状況は変わりつつある」と指摘する。工場進出が相次ぐ地域では労働力が不足し、組合は強気の要求を掲げて譲らない。

 文化の違いが摩擦を生む場合もある。中国のある日系企業では、20分間の朝礼を労働時間と認めない会社側に労働者が反発、争議に発展した。

 新興国の企業戦略に詳しい富士通総研の金堅敏主席研究員は「成果重視の欧米企業に比べ、プロセス重視の日本企業は従業員にとって評価の仕組みや責任の所在がわかりづらい」と話す。労使間で信頼関係を築き、不満の芽を早期に摘み取るなどの対応がこれまで以上に求められている。

nikkei.com(2012-07-22)