自動車生産に新潮流 「レゴ式」で多品種対応
新車立ち上げ容易、災害にも強く

 クルマのつくり方が変わろうとしている。変化の震源地はドイツだ。

 最近、「モジュール・アーキテクチャー」という言葉を使い始めたのが、独フォルクスワーゲン(VW)だ。エンジンなど主要な部品を様々に組み合わせ、大きさや用途、地域に合う車をつくることを意味している。

 例えば、馬力の要る車も普通の車もエンジンは別々に開発せず、小型のものでできるだけ済ませてしまう。高出力にしたければターボチャージャー(過給器)などをつけ、小型エンジンの燃費の良さはそのまま残す。

■開発費用2割減

 スイスで開催中のジュネーブ国際自動車ショー。VWのマルティン・ヴィンターコーン社長は「最新技術をすべての新車で共有できる体制が整った」と語った。エンジンや通信システムなど主要な構成要素を、部品を一体化したモジュールで開発、それを高級車ブランドの「アウディ」から大衆車の「VW」、新興国向けの「シュコダ」「セアト」などのクルマと共有していくという。

 VWのブランドはすでに多くの車種がこうした考え方で生産されている。VWの傘下には7つのブランドがあるが、それらを超えて部品を共通化すれば、新車の開発にかかる費用は2割以上も減らせるという。

 クルマの歴史を振り返れば、職人による手作りが基本だった自動車生産を飛躍的に効率化したのは、1908年に米国のフォード・モーターが始めた「ベルトコンベヤーによる大量生産方式」と、90年代に確立されたプラットホーム方式だった。

 プラットホームは「車台」ともいわれ、エンジンやトランスミッション、ブレーキなどで構成する土台部分のことだ。それを大きさや用途などいくつかの種類に分類・集約し、何十車種とある車の生産に規模の経済を持たせようとするのが、プラットホーム式の狙いだった。先行したのはやはり、VWやダイムラー、BMWなどのドイツメーカーだ。

 だが時代は移り、世界はさらに複雑化した。先進国市場は成長が鈍化しながらも、温暖化ガス排出や安全にかかわる規制が厳格になり、新興国市場も国や地域によって求められる車の性能、大きさ、値段がばらばらになった。そうした問題をひとつひとつ、最小限のコストと人材でどう乗り越えていくか。VWが出した答えは、求められる車を「モジュール」の組み合わせで効率的に開発、生産するやり方だった。

 VWの2011年の純利益は154億900万ユーロと10年比で2.3倍。新車販売台数も827万台と10年より15%伸び、トヨタ自動車を抜いて世界2位になった。欧州債務危機がありながらも高いペースで成長が続く原動力は明らかに同社が編み出したモジュール・アーキテクチャーによる機動的な新車開発とコスト競争力である。

■新興国向けも即応

 日本車メーカーもVWの急激な躍進に注目しており、モジュール式での設計・開発手法の導入に動き出している。トヨタは、同じプラットホームを使う車の部品を全世界で統一し、品質強化と調達コストの圧縮を目指す設計改革に着手した。

 日産自動車もエンジンの周辺部や前輪周辺部など4カ所の設計を可能な限り共通化し、開発費を従来比で27%削減する。

 こうしたやり方を採ると、代替生産が容易になり、大災害による調達の停滞を防げる。生産技術の習熟度が低い新興国などでも早期に新車の立ち上げが可能になるといったメリットがある。

 新興国での新車需要はすでに世界市場の半分を超えている。日本車メーカーがそうした需要構造の変化に適応し、国際競争力を持続していくためにも、ドイツ発の新潮流を徹底して検証しつつ、それをしのぐような新車開発システムをつくりだしていく必要があるだろう。
(編集委員 中山淳史)


■VWのレゴ式 ハイブリッド車の手ごわい「敵」に

 「レゴ式」とも呼ばれるフォルクスワーゲンの「モジュール・アーキテクチャー」は日本の低燃費技術、とりわけハイブリッド車の手ごわいライバルになりそうだ。

 ハイブリッド車はガソリンエンジンとモーターを組み合わせた複雑な構造だ。だが、レゴ式は小型エンジンとターボチャージャーなどの組み合わせ。新興国のメーカーにも導入が容易で、すでに環境規制対応をこのやり方で乗り切ろうとする動きもある。

 みずほコーポレート銀行は2020年には中国市場の3分の1がエコカーになると予測する。最も普及する技術はハイブリッド車でも電気自動車でもなく、レゴ式になる可能性があるとしている。


nikkei.com(2012-03-18)