エルピーダ破綻、「攻めの姿勢」が貫けない日本の経営者
===田原総一朗の政財界「ここだけの話」===

 半導体のDRAMで世界第3位のエルピーダメモリが2月27日、会社更生法の適用を申請し、経営破綻した。負債総額は約4480億円と言われ、製造業では過去最大となった。

チャレンジしなくなった日本の経営者たち
 日本の大手電機メーカーの業績は総崩れの状況にあるが、それとエルピーダの経営破綻の背景には同じ構図がある。

 アメリカもヨーロパも先進国は高成長の時代が終わり、特に日本は「失われた20年」と言われ、長い停滞期が続いている。

 そんな状況では、日本の経営者は「博打(ばくち)」が打てなくなった。危険を覚悟して思い切ってやってみることができなくなったという意味だが、言葉を変えれば、「チャレンジ」しなくなったのである。

 エルピーダの経営破綻は、韓国のサムソン電子に完敗した格好だ。1980年代には半導体メモリーの生産で、日本は世界シェアの8割を握り、最も勢いがあった。それなのに、なぜこうなってしまったのか。

なぜサムソン電子に敗れたのか
 一つには、日本の電機大手が作っていた半導体メモリーは主に自社製品に使用するためだったことが挙げられる。

 それは液晶パネルの生産でも同じだ。シャープはかつて世界一の液晶パネルメーカーだったが、自社製のテレビに使用する目的で生産していた。一方、サムソンは液晶テレビメーカーであると同時に液晶パネルメーカーでもあって、世界中で液晶パネルを売っていた。

 つまり、半導体メモリーも液晶パネルも、この手の部品は生産の規模を拡大してコストダウンを図らなければならない。エルピーダはそれができずに世界競争に負けたのである。

 事業展開が遅すぎたことも一因だ。日本の半導体メモリーはもともと主に大型コンピューター向けに作られた。ところがその後、パソコンが普及したにもかかわらず、パソコン向け半導体メモリーへの切り替えが遅れた。

 さらに、韓国企業のスケールの大きさもある。サムソンの2011年売上高は約11兆円で韓国の国内総生産(GDP)の15%を占めると言われる。純利益は9000億円にも達している。

投資の規模とスピードで韓国に遅れをとる
 そんなサムソンに対して、パナソニックの売上高は5.5兆円ほどだから、サムソンの2分の1の規模だ。純損益にいたっては、パナソニックの2012年3月期は過去最大の7800億円の赤字になるという。ソニーも同様に2200億円の赤字になる見通しと発表している。

 サムソンがグローバル企業になるきっかけは、1997年のアジア通貨危機で韓国が経済危機に陥ったことだった。韓国政府は企業の統合整理を行い、効率的な経営でグローバル企業の育成を行った。公的資金を投入されたサムソンもよみがえり、強力な世界的な企業に生まれ変わったのである。

 経済産業省幹部はエルピーダの経営破綻について、次のように話す。

 「半導体メモリーは、投資の規模とスピードで勝負が決まる。サムソンの投資規模は大きく、スピードも速い。それに比べ、日本は両面で遅れをとった。しかもメモリーには、新しい商品開発の可能性がない。新しい商品で勝負するということもできない」

 企業の経営者は「これは」と見込んだら、資本を集中的に投入し、短期間で勝負に出る、そして次の事業へと取り組まなければ、勝てないのだ。

京都の企業は「人財」を育てる
 京都にある企業はおおむね業績がよく、世界で大きなシェアを握っていると言われる。なぜだろうか。

 彼らはよく「共生」という言葉を使う。「共生」とは、他の企業の足を引っ張らない、他の企業のじゃまをしないということで、そのために他企業のマネをしない。つまり、京都の企業にとって大切なのはオリジナリティーなのだ。

 彼らは社員の教育に熱心である。入社してきた「人材」を「人財」にするために力を注いでいる。材料の「材」ではなく、財産の「財」にするには5年かかるそうだ。

 大切なのは、基本を教えてからチャレンジさせること。チャレンジさせると最初のうちは99%失敗する。失敗して、初めて自分の頭で考えるようになる。そして再びチャレンジさせると、「この前はここで失敗した。今度はどうすればよいか」と考えるようになる。

 京都の企業は、自分の頭でものを考える人間を育てているのである。ところが日本の多くの企業では、「失敗しないのが偉くなる道」になっているのではないか。それでは個性とチャレンジ精神のある「人財」は失われる。

 チャレンジできる経営者、チャレンジできる社員を育てることこそがオリジナリティーの源になる。これが重要なのだ。

エルピーダと同じことがほかの企業でも起こる
 高度成長期の経営者にはチャレンジ精神があった。その後、景気の低迷が長引くうちに、「攻めの経営者」が「守りの経営者」に変わってしまった。

 グローバル化が急激に進展しているいまこそ、「攻めの経営」や「一発勝負」をしなければならない場面もあるはずだ。守りに入った経営者は、世界から取り残されていく。

 エルピーダの坂本幸雄社長は続投するという。会社更生法では経営陣が退任するのが一般的だが、今回は経営陣の一部が残る「DIP型会社更生」をめざす。

 なぜ続投するのか。「坂本社長の代わりになる人がいない」からだ。半導体業界には、経営者らしい経営者がいないのである。

 この事態は深刻である。エルピーダと同様のことが、今後ほかの企業でも起こるのではないかと危惧している。

nikkeibp.co.jp(2012-03-01)