ケーヒンなどホンダ系部品、変わるケイレツ関係

 ホンダと系列部品メーカーとの関係に変化の兆しが出てきた。これまでは系列一丸となった開発・生産体制で成長戦略を進めてきたが、円高や世界的な競争激化を背景に、ホンダは部品メーカーの選別色を強める傾向にあるのだ。足元では東日本大震災やタイ洪水といった天災を乗り越え、ホンダ系部品会社で最大手のケーヒンをはじめ各社の2013年3月期の業績はV字回復となる公算が大きい。だがその先に控える経営環境を見据えると、コスト競争力を高めてホンダの受注を取り込みつつ、取引先の多様化を進めなければ持続的な成長が難しくなる可能性がある。

 1月、ホンダ系の部品製造・車両組み立てメーカーの八千代工業は相反する内容のリリースを公表した。1つはメキシコでの生産子会社の設立、もう1つは早期退職支援制度の実施だ。ホンダは八千代工業に委託していた軽乗用車の組み立てを、新型モデルから順次、自社工場に切り替える計画だ。八千代工業は今後、数年間かけて連結売上高の4〜5割を占める車両組み立て事業を大幅に縮小する方向だ。人員削減を狙った早期退職支援制度も同事業の縮小に伴うものだ。

 ホンダはここ数年、11年3月期を除けば国内生産が減少傾向にある。国内市場が停滞していることに加え、円高対策として、輸出車種の一部について国内生産を海外工場に移管しているためだ。新型軽乗用車を八千代工業に委託せず自社工場で生産する狙いも、自社の工場の余った能力を有効活用して稼働率を維持する一環とみられる。

 八千代工業の例は、「脱系列」を掲げて大改革を進めた日産自動車のように、ホンダが系列部品メーカーから距離を置き始めたということではない。実際、八千代工業がメキシコに生産子会社を立ち上げるのも、ホンダ向けに燃料タンクなどを供給するためだ。

 だが、完成車メーカーを取り巻く環境は厳しく、系列部品メーカーとの関係も変わりつつある。特にこの1年は、急激な円高に加えて韓国・現代自動車のようなライバルも急成長。業界全体で見れば、コスト競争力を付けるために、海外製の安価な部品を調達したり、系列にこだわらない調達を一段と進めたりするといった動きも出ている。

 トヨタ自動車でさえ、輸入部品の採用について「動いている。同じものを作っているのなら同じように競争してもらおうということ」(伊地知隆彦専務役員)と、系列部品メーカーを優遇しない姿勢を示す。完成車メーカーは部品会社との間の取引について、今後、是々非々で判断する傾向が強まりそうだ。こうした大きな流れのなか、ホンダ系の部品メーカーも受注先の拡大に動き始めている。

 空調部品やエンジン制御部品を手がけるケーヒンは昨年、独ダイムラーから「メルセデス・ベンツ」向けの受注を獲得した。欧州メーカーからの本格的な受注は初めてだ。ケーヒンの田内常夫社長は「2020年にはホンダ向け以外の売上比率を約20%に倍増したい」と強調する。シートを手がけるテイ・エステックもドイツに営業・開発拠点を設置。中長期のビジョンとして「世界中のお客様のニーズにこたえる」「グローバル企業」への脱皮を掲げる。

 来期にかけて各社とも業績は急回復しそうだ。今期は震災やタイ洪水による生産減などが響くが、来期になれば震災などの影響が消えるためだ。

 ケーヒンを例に取ると、同社は1月末に12年3月期の連結業績予想を下方修正した。営業利益について前期比37%減の136億円から53%減の102億円に減額した。だが来期のアナリスト予想の平均値(QUICKコンセンサス)で見れば営業利益は今期予想比約2倍の216億円と急回復する見込みだ。

 下方修正発表翌日のケーヒンの株価は8.7%上昇した。来期のV字回復期待を映したとみることもできるだろう。しかし、V字回復後の収益環境には不透明感が漂う。ホンダ系部品メーカーが来期以降も成長を続けるためには「ホンダ以外」の受注獲得の重要性が増してくるのは間違いない。 (三田敬大)

nikkei.com(2012-03-01)