北アルプス登山紀行

 昨年から山好きの友達に誘われて九州の山々を登り始めましたが、登っているうちにもっと高い日本アルプスに登ってみたいと思うようになりました。

 そうかと言って全くの素人が日本アルプスに登るのは危険だと思い、ツアー登山の初心者コースを探しました。ツアー会社の話だと、初心者が登れる日本アルプスの山は、南アルプスの北岳と北アルプスの白馬ということでした。

 EGの先輩登山者にも相談したところ、白馬がお花畑が綺麗でいいと勧められ、白馬に登ることにしました。

 岳父は山登りが大好きで一人で日本アルプスに登っていましたが、その岳父の経験で山は7月が天気が安定していると言っていましたので、7月の梅雨明けの白馬ツアーを申し込みました。ところがその後白馬の情報を集めているうちに、最近雪渓で落石事故が多いことが分かりツアーを断りました。

 それと、登山ツアーだとキャンセルが2週前までで、もし天気が悪くても行かざるを得ないので危険であり、ツアーでなく一人で行くことにしました。

 それで、もう一度計画を練り直し、どうせお金をかけて出かけるのなら、まだ一度も行ったことがない憧れの上高地を拠点にして登れ、北アルプス登山を堪能できる山はないか探しました。
 上高地の地図を眺めていたら、ふと田代橋のふもとの登山口から西穂高岳に登る登山道があるのを見つけました。よく見ると急坂とか沢に迷い込まないように注意と書いてあり結構厳しそうで、標高差も1200メートルあります。それで、ガイドを雇うことにしました。

 このルートで登ることにしてネットで調べたところ、登山口から西穂山荘を経由して西穂独標までは行けそうですが、そこから先は岩が崩れやすく初心者には危険だということが分かり、西穂独標までにすることにしました。

 次は宿泊するところを決めなければなりません。これもネットで調べたところ、河童橋の近くにある西糸屋山荘のオーナーが登山家だそうで、登山者には向いていると思いそこに決めました。廊下や吹き抜けに山の絵や写真が沢山飾ってあり、山の本が並んだ談話室もありました。

 高い山で一番気をつけなければならないことは天候です。山荘とガイドのキャンセルは3日前までですので、それまで上高地と西穂高は飛騨地方の週間天気予報を毎日ネットで見ていました。そうしたら8月19日からの1週間は晴れ時々曇りの日が続いていたのでいよいよ決行することにして、8月15日の日に8月17日から19日の3日間を予約しました。

 福岡から上高地に行くのに飛行機で松本空港経由で行くルートもありますが、一日一便で週に3日しかなく、新幹線で名古屋まで行き、そこから行きは中央線で松本に向かい、松本で松本電鉄に乗り換えて終点新島々から上高地までバスで行きました。

 実は女房とその母親は40年前に一度上高地に行ったことがあり、そのときとても良かったので一緒に行くと言うことになりました。

 母親は93歳になりますが、頭は私より記憶力もよくしっかりしていますが、大変太っていて足が弱ってきているので、折畳み式の車椅子に乗せての旅になりました。

 名古屋から松本までの中央線は木曽川にそって走り、車窓から御嶽山や乗鞍岳が眺められて列車の旅をしている雰囲気でした。

 松本で下車して松本電鉄に乗り換えましたが、駅も車内も登山客で賑わっていて、ホームから遥か遠くに北アルプスが眺められ、小さく尖った槍ケ岳が見えたときは北アルプスが近づいたと実感しました。

 お昼過ぎに上高地に着きましたが、晴天の空にそびえる穂高連峰の雄姿に圧倒されました。これまでにスイスアルプスやカナディアンロッキーを見て感動しましたが、それに劣らず感動しました。穂高連峰の尾根伝いに小さく西穂独標が見えましたが、ここからそこまで1200メートルの標高差を一気に登るのは厳しいそうだと感じました。

 翌日早朝のあたりはまだ薄暗い5時に山荘をガイドさんと出発しましたが、天気予報の読みが当たって雲ひとつない絶好の登山日和でした。

 登山口はウェストン碑を少し行った田代橋のたもとにあり、そこで登山名簿を提出していよいよ登山開始です。最初は木々の林の中のなだらかな道ですが、次第に急坂になりゆっくり登りました。途中木々が倒れて道が幾重にも分かれて見えるところがあり、この辺が道に迷わないように気をつけるところです。夜も明けて左手に焼岳と乗鞍岳がくっきり見えます。

 途中で一休みして西糸屋山荘で用意していただいたおにぎりを食べました。登山道は九州の山道に比べよく手入れされていて、思ったより楽に西穂山荘へ着きました。

 山荘で一休みしていよいよ西穂独標に向いました。山荘からは大きな石が横たわった坂道で、それをしばらく登ると10センチほどの石がゴロゴロしたところが続き、そこからは西穂の山々が見えてきます。



 独標に近づくと岩場になり、そこをすぎると目の前に独標が現れます。いよいよ独標の登りです。上を見上げると結構厳しそうですが、ガイドさんから3点支持を守って登るようにとの注意があり、しっかりと3点支持で岩にへばりつきながら登りました。

 頂上から眺める穂高連峰の眺めは素晴らしく、暫く岩に座って眺めていました。ふと見ると、枯れかけた花束がありました。ガイドさんに尋ねたところ40数年前にここで雷に打たれた11名の高校生が亡くなる悲惨な遭難事故があり、毎年8月1日に関係者が訪れて花束を献花するとのことです。こんなに天気がいい日には想像もつきません。

 素晴らしい景色を目に焼き付けて独標を下りましたが、岩場の下りは初めてで、格好などかまわずに俯せになりながら3点支持で慎重に下りました。このような岩場は初めてですので最初は緊張しましたが、足をかけるところと手でつかむところを探しながらの登り下りは結構楽しい気もしました。もう少し若ければ病み付きになりそうです。

 西穂山荘で昼食にしましたが、西糸屋山荘で用意してくださったおにぎりは疲れのせいか食べる気がせず、持ってきたバナナと山荘で売っている豚汁を食べました。山荘は見るのも入るのも初めてですが想像していたより立派で、中ではとんこつラーメンやおでんやお酒も売っています。西穂山荘のそばにヤマトリカブトの花が群生していました。

 帰りは新穂高ロープウェイの駅の付近から眺める槍ヶ岳が一番美しいという話を聞いて岐阜県側の新穂高温泉に下りることにしましたが、残念ながら午後からは雲が出てきて隠れて見ることが出来ませんでした。午前中はあんなに天気が良かったのに山の天気の変わりようを実感しました。

 新穂高温泉からはタクシーで平湯まで行き、そこからバスで無事に上高地に戻ってきました。

 次の日は上高地見学で、西糸屋山荘から昨日登山で通った道を田代橋を渡り、湿原の遊歩道を通って大正池を見物し、そこから明神池を目指して上って明神池を見物してさらに徳沢まで行きました。徳沢の付近で氷壁で有名な前穂高東壁が見られると言うことで行って見ましたが場所が分からず、ベテラン風の登山者に尋ねたらまだここからだいぶあり、帰りが遅くなるということで諦めて戻りました。戻りは明神池から対岸の遊歩道を通って戻りましたが、湿原地帯があちこちにあり、清流が流れているところもあって、とても美しい眺めでした。



 最終日も晴れていて朝から最後の散歩をしました。梓川から眺める穂高岳連峰の端に位置する西穂独標に目をやり、よくこの年で登ったものだと元気な我が身に感謝しました。

 帰りは足が不自由な女房の母親のためにタクシーで飛騨高山に向い、ついでに同じタクシーで市内観光をしました。名物の朝市を見て周り、そばにある日本で唯一現存する代官所の高山陣屋と、さんまちと呼ばれる古い町並みと、高山祭に使われる山車を常設している高山祭屋台会館と飛騨の古い民家が立ち並ぶ飛騨の里を見学して帰路につきました。

 最近は高齢者登山が盛んですが、初心者が安全に北アルプスの岩山登山と北アルプスの風景を楽しむ方法として、今回私が実践したガイドを雇い上高地の西糸屋山荘に泊まって田代橋たもとの登山口から西穂独標に登る案はお勧めです。

 ガイドは西糸屋山荘で手配してくれます。ガイド料は一日3万円で上高地にガイドが不在のときは5千円加算されます。その他に保険料が300円で、これで200万円の保障があるそうです。普通は5千円ぐらいかかりますので、ガイドと一緒で安全性が高いということで安いのではないでしょうか。

ガイド協会の名前と電話番号は下記です。
NPO法人 信州まつもと山岳ガイド協会(やまたみ)
0263−34−1543
今回のガイドさんは野生生物資料情報室の代表をされていて、登りながら高山植物の名前を教えていただきました。高い山に登るときは高山植物を観察するのがいつも楽しみです。

 これが最初で最後の北アルプス登山と決めていましたが、今回同行したガイドさんに危険な岩場があるところ以外はどこでも登れる体力は十分あると言われ、もう一度どこか登れそうな北アルプスの山に登ってみたくなりました。上高地の魅力に惹かれたのもまた登りたくなった一因で、登るとすると上高地を拠点に登れる山を探すことにします。槍ヶ岳は無理かな?毎日続けた愛宕山300段の2段登りを止めることができるとほっとしましたが、再度の北アルプス登山に備えてまたしばらく継続します。

記:山永 順一(2009-08-30)