人と会社の関係
組織は人材が枯渇しやすい。歴史をみても、鎌倉幕府は極端に人材が不足していたし、末期の徳川幕府も明治以後の日本政府にも、今の政府と野党にも極端に人材が枯渇している。 人材といえば、先日、品川プリンスで、あるセミナーを受講した。本田技研工業の黎明期にあって、本田宗一郎氏から直接薫陶を受けた3名のOB社員が、それぞれのHONDAヒストリーを語ってくれた。 「本田しか知らない」という3名のお話をあえて総括すれば、本田という会社が世界企業になれた原動力は、「夢と謙虚さ」。こんなものを造りたいという子供のような夢。わんぱく小僧のようでありながら、雷おやじのような怖さもあり、愛敬も兼ね備えた宗一郎氏。OBが氏のエピソードを語るとき、亡き親父を物語っているかのようで余人には立ち寄れない雰囲気があった。 だが企業マンにとって、引退後にも我が親父を語れることほど幸せなことはない。同時に本田という会社は、自分たちが得意でないこと、例えばフィロソフィだとか人事制度だとかマーケティングとかになると、他社を徹底的に研究分析し、素直になって他社事例を取り入れる謙虚さが備わっていたという。他社で実証済みのものは、あえて自分たちが実験する必要はなく、素直に取り入れてしまえ、という合理的な姿勢が感じられる。 半日のセミナーを受講し終えての印象としては、この3人がいたからこそ本田が大きくなったというよりは、最初は並の人材だった彼らを鍛えあげ、大胆に仕事をまかせて立派な経営者として育て上げていった会社の人事力に感心した。人材が会社を大きくする時もある。だが、会社が人材を大きくさせる時もある。ということだ。 企業の成長が組織の成長を作り、人の成長を促進する。その逆もある。企業の停滞が組織の停滞を生み、人の停滞を促進する。
ある本田マンの場合、こんな風に見事にキャリアを積んでいった。 27才から38才までの11年間が一番長い勤務であり、他のキャリアはすべて2〜3年でローテーションし、らせん階段を登るように取締役、そして社長の座に到達している。 これがキャリア開発というものの好例ではなかろうか。環境が人を育てる。新しい環境を用意し、成長を促進することが人事の要諦なのだ。中小企業ほど、「あの部署からあいつは外せない」という思いこみを持ちすぎていて人事の硬直を招いているように思う。 人を育てるためには、部門のエゴや利益の都合を一度度外視しなければならないのだ。 記:木田橋 義之(2007-12-19) |