【ギリシャ神話】「月桂樹の冠」の由来

 ギリシャ神話とローマ神話に登場する神々はほぼリンクしている。ゼウス=ジュピター、アフロディーテ=ヴィーナスなどである。前者がギリシャ神話、後者がローマ神話での呼び名で、役割もほぼ同じである。

 さて、お馴染の「キューピッド」と呼ばれる可愛い神様がいる。この神様、実はローマ神話での呼び方でギリシャ神話では「エロス」となり、「アフロディーテ」とともに愛を司る大切な神様である。見かけもほぼご想像の通り、背中に羽が生えていて、かわいらしい男の子の格好をしている。手には愛の矢を持っている。

 ある日、太陽神アポロンとこのエロスが話していた。アポロンはギリシャ神話の中で太陽を司るだけあって、筋骨隆々ギリシャ彫刻みたいなかっこいい神様である。弓矢の名手でもあったので、エロスの持っているオモチャみたいな矢を指差してからかった。
 「そんなオモチャみたいな弓矢が使えるのか?」馬鹿にされたエロスは気持ちが治まらず、その仕返しの時期を見計らっていた。

 ある日、エロスはアポロンが河の神の娘のダフネと一緒にいるのを見つけた。そこで、彼らに向かって矢を射った。エロスの矢には2種類あって、一つはそれに射抜かれると恋に落ちてしまう金色の矢、もう一つはそれに射抜かれるとどうしても相手が嫌になってしまう鉄の矢だった。

 エロスはアポロンに金の矢を、ダフネに鉄の矢を射ったのだった。するとその瞬間からアポロンはダフネが恋しくて恋しくてたまらなくなる。しかし、ダフネはなぜかこの男が嫌で嫌でたまらなくなる。アポロンはなかなかもてる神様だったから、なぜ嫌われるのか分からない。「おい待て。」と追いかける。するとダフネは必死で逃げる。追う、逃げる。しかし太陽神アポロンにかなうはずもなく、その差はどんどん縮まってしまう。もうアポロンに捕まってしまうというその刹那、ダフネは父に頼んで助けを請う。

 それを聞いた父、河の神ペネイオスは自分の娘を木に変えてしまう。アポロンがやっと捕まえたと思ったその女性は、見る見るうちに木に変わっていってしまう。足が地面に根をはり、指先から葉が生えて来る。驚いているうちにアポロンは1本の木にしがみついていた。

 アポロンが後日、エロスをからかったことを後悔したことはもちろん、それでもダフネを忘れられなかった彼はそのダフネが変化した木の葉をオリンポスの競技の勝者にささげることにした。これがオリンピックの勝者の頭に「月桂樹」の冠をかぶせることになった由来である。

 一方、ギリシャ神話を題材にした芸術品も多く残されていて、ボッティチェルリの「ヴィーナスの誕生」はもっとも有名であるが、この話も芸術品として残っている。 ベルニーニ作「アポロンとダフネ」である。(ローマ・ボルゲーゼ美術館所蔵)無造作に居並ぶ芸術品の数々の中にひときわ大きく目立つその像はまさに想像通りで、アポロンがダフネを捕まえた瞬間、そのダフネが木に変わる様子を見事に捕らえている。美術雑誌などで見られた方もいるかもしれない。

記:木田橋 義之(2005-03-17)