野菜づくりの三つの喜び

 定年退職後、残り少ない人生の柱を“野菜づくり”と決めて5年目を迎えた。現在100坪の土地を耕作し、昨年は35種類の野菜を栽培した。野菜の自給率は65%(目標は95%)である。わが菜園は、農薬や化学合成された肥料を使わない無農薬・有機栽培である。

 最初の年は「無農薬有機栽培の難しさは何か?」を三現主義で把握する年であった。その年の栽培記録を紹介する。
「4月3日農協でキャベツの苗5本を購入し畑へ植える。ヒョロヒョロと細い苗で、春の強風が吹くと茎が折れそうだ。5月に入ると葉がグングンと大きく生育する。5月中頃から中央部に球を巻き始める。毎朝キャベツについたアオムシを取るのが日課となる。6月に入ると中央部の球がかなり大きくなる、一方で、葉が次第に虫に食われ、葉の血管に相当する筋の部分を残すだけになる。6月11日キャベツを収穫する。驚いたことに球の中に大きな虫が数匹いた。この虫はヨトウムシ(夜盗虫)といい、体長は35mm、胴回りが15mmの太さ。夜中に行動を起して葉を食べ、土の中から球に侵入し内部も食べる。忍者のような虫である。夜中に懐中電灯を持って毎日畑へ行き、虫取りは出来ない。結果として、このキャベツはほとんど虫に食われ私が食べたのはほんの1部分だけだった。野菜づくりの敵は、虫以外にカビ・バクテリア・ウィルスなどの微生物、カラスなどの鳥、それと“雑草魂”をもったしぶとい雑草などだ。敵は、生存競争に勝ち残った最強精鋭部隊、一方、こちらの野菜部隊は、純粋培養・温室育ちの弱小部隊である。ファイトをかきたててくれる。」

 虫害や微生物による病気、連作障害などの対策として、一般の農家では農薬漬けと言える位農薬を多用している。わが菜園では農薬を使わないため戦略的取り組みが必要である。

 まず、畑を54畝に分割管理した。1畝の広さは巾1m長さ3.3mに統一した。1畝は1種類の野菜を育て夫婦二人が食べるのに十分な広さとした。連作障害とは、同じ野菜を連続して栽培することによって、土壌中に、その野菜を好む病菌が異常発生することから受ける障害である。この障害を避けるためには、例えばナス科のナス・トマト・ピーマン・ジャガイモなどは親戚である。ナス科の野菜は親戚同士でも4年以上作付けの間隔を空けなければならない。わが畑では、畝ごとに作付けを管理して対応している。
 虫対策はネットを張ることにより70%位対応出来る。全ての畝が同一寸法のため、グローバル・スタンダードの考えで同一寸法のネット機材で対応出来る。更なる虫対策として、植物エキス活用による防虫剤の開発などをトライしている。

 野菜は生き物であるが、厳しい状況下でも声を出さない。野菜の心の声は野菜の葉や茎のイキイキ度を毎日目で見て判断する必要がある。野菜生育の原理原則は何かを常に考えながら観察し対策を考える。三現主義は野菜づくりに欠かせない。
 もう1つ心がけているのは唯我独尊に陥らないため、周辺地域の他の畑との彼我比較を欠かさないことである。毎朝のウォーキング時、他の畑の野菜の生育状況を見て負けている箇所の対策を考えている。

 野菜づくりは毎年PDCAが回せ、かつ、スパイラルアップを図って行くことが可能だ。今年は5巡目のサイクルを回している。野菜づくりの喜びは、育てる喜び。収穫して食べる喜び。お裾分けして喜んでもらえる喜びがある。今年もこの三つの喜びをさらに拡げ、チャレンジしながら楽しめるものにしたい。
《追記:EG技報「第12号」掲載原稿を転載。》

記:大澤 敏夫(2004-12-05)