【ギリシャ神話】トロイ戦争から生まれた『ある言葉』

 ギリシャ神話はいくつかの古代の話を総称して呼んでいる。主な話は「オリンポスの神々に関する話」「ヘラクレスの12の冒険」などだが、何といっても一番有名なのは「トロイ戦争の話」ではないだろうか。あの木馬が出てくる話である。 また、ギリシャ神話から生まれた言葉も数多く、中には皆さんにもお馴染みなものもあるはずだ。今回はトロイ戦争から生まれた『ある言葉』について紹介したい。

 まず、トロイ戦争がなぜ起きたのか? ギリシャ神話の面白さの一つに、絶妙なつじつま合わせがある。よくあるのが、予言があって人々はそれから逃れようとするのだが結局はその通りになってしまう。この話もそんな予言者の言葉で始まる。
 因みに、トロイ戦争は紀元前12世紀頃に本当にあった戦争である。長く空想の話とされてきたが、シュリーマンという人によってトロイの遺跡が発掘され、本当にあったことが証明された。

 トロイ戦争の発端

 ギリシャ神話での最高神「ゼウス」は海の女神テティスを好きになったが、予言者から二人にできる子どもは親を超えると言われ、泣く泣くあきらめ、テッサリアというギリシャの国の王様に嫁にやった。この二人の結婚式に、いさかいの女神エリスは自分が呼ばれなかったことに腹を立て、お得意の戦争を起こしてやろうと企む。 そこで、「一番美しい人へ」と書かれたりんごをこの宴席に投げ込む。すると大変、出席した女神はいずれも自分の美を誇りにしていたから、りんごの奪い合いとなった。中でも恋の神様「アフロディテ」、知の神様「アテナ」、ゼウスの正妻「ヘラ」の三人はどうしても自分だと譲らず、仲裁を頼まれたゼウスは困って、トロイの王子「パリス」に聞きに行けという。三人にたずねられたパリスこそいい迷惑だが、女神たちは自分を選んだら自分の得意分野での褒美を彼に約束する。

 そこでの彼の選択が間違いだったと思うのだが、アフロディテを選んでしまった。若い男から見れば恋は一番の魅力であるかもしれない。その見返りとして彼は世界中で一番美しい人をお嫁にできるという約束を彼女から取りつけた。その世界一美しいと言われる美女は、ギリシャ神話中でも1、2を争うと言われる美女「ヘレネ」だった。しかし、ヘレネはギリシャの国スパルタの王妃になってしまっていた。
 その夫を決める際に(それは絶世の美女であったから、すさまじい争奪戦があった。)彼女が夫を決めるが、その決めた夫に不服を申し立てるものは、ギリシャの国の全員がそれに対して立ち向かうという盟約を結んでいた。

 トロイは今のトルコにあった国でギリシャとはエーゲ海をはさんで対岸にある。そのトロイから使者としてスパルタに訪れたパリスがヘレネと恋に落ちてしまう。そして、パリスはヘレネをトロイに連れ帰ってしまうが、ギリシャの国々が黙っている筈がない。かの盟約もあるので、大挙してトロイへ押し寄せたというわけだ。それから何と彼らはたった一人の美女を取り戻すために10年以上も戦争を続けるのだが、最後は有名なトロイの木馬の作戦で、ギリシャ側が勝利し、トロイの国は滅んでしまう。
 いさかいの女神エリスの企みはまんまと成功し、つじつまが合った! ただ、ゼウスがパリスを指名するところがやや強引で、これにはこんな裏話がある。
 前からゼウスは人間の急激な増加に気をもんでいた。人々は増え、神々をあまり敬わなくなった。そこで、ゼウスは人間を減らそうと考え、テティスの結婚式でエリスにわざと招待状が届かないようにしたというのだ。トロイ戦争の発端の話はここまでで、

 今回の話の主人公は、トロイ戦争の発端となった結婚式を挙げたテティスとテッサリア王ペレウスの子ども、アキレウスである。 彼はこの戦争にやむを得ず参加する。 実はこれにも予言が絡んでいて、この戦争で彼は戦死する予言を受けていたが、友を救うため出陣する。 勇者が百出するこの戦争の中でおそらく最強の戦士だ。 彼は生まれた時に、不死身になってほしいと願う母テティスによって、黄泉の国に流れるステュクス川に漬けられるのだが、その時にテティスは子供の踵(かかと)を持って川に漬けたためその部分だけが弱点になってしまった。 そう、これが「アキレス腱」の語源である。「弱点」の比喩によく使われるのは、このことからによる。そして、彼はトロイ戦争で幾多の武勇伝を残すが、戦争の終盤、この弱点を弓で射抜かれて戦死する。

 少々長くなったが、『アキレス腱』の由来がお分かりいただけたことと思う。

記:木田橋 義之(2004-09-23)