【ギリシャ神話】なぜ、イカロスは空を飛んだのか?

 イカロスの翼の話は皆さんご存知だろう。蝋でつなげた羽で空を飛んだが、注意も聞かずに空高く舞い上がりすぎたため、太陽に近づきすぎ蝋が溶けて羽がとれ、空から落ちて死んでしまった若者の話である。調子に乗って有頂天になることを戒める比喩としてもよく使われる話だが、(昨今は、危険を顧みずに空高く飛ぶ果敢さをほめる解釈もあるようだが) なぜイカロスは空を飛ぶことになったのだろうか。

 イカロスの翼の話をするためには、ある英雄の話をしなくてはならない。ギリシャ神話には英雄がたくさん出てくる。メドゥサの首を取ったペルセウス、十二の難行をこなしたヘラクレス、アルゴー丸の冒険のイアソンなど。今回の英雄も彼らに勝るとも劣らない勇者、その名をテセウスというアテナイの王子様である。この頃、アテナイは地中海に浮かぶクレタ島との戦争で敗れ、クレタ島のミノス王に、毎年男女7人ずつを生贄(いけにえ)として差し出すことを約束させられていた。

 この生贄は迷宮ラビュリントスに閉じ込められた怪物ミノタウロスに捧げるためのものであったが、この果敢な英雄はみずから生贄になることを願いでたのであった。

 クレタ島に着いたテセウスは、さっそく迷宮に入りミノタウロスをやっつける算段を始めたが、その後に迷宮から出てくる方法が分からない。その時、助け舟を出したのがミノス王の娘アリアドネで、テセウスに一目惚れしたアリアドネはその迷宮の設計者である名工ダイダロスに迷宮からの脱出方法を聞きだした。

 その方法は入り口に糸を結んで、その糸を伸ばしながら迷宮に入っていくという方法だった。アリアドネはテセウスに自分と結婚してくれることを約束させ、その方法を伝授した。これにより、迷宮に入ったテセウスは見事ミノタウロスを退治し、その糸を手繰り寄せて迷宮から脱出した。すると、面白くないミノス王はテセウスを捕まえようと追いかけてくる。手助けしたアリアドネもテセウスとともに逃げる。ダイダロスの手助けもあって、無事二人はクレタ島からの脱出に成功する。

 この後、テセウスは途中立ち寄った島でアリアドネが寝ている間に彼女を置き去りにしてしまう。ひどいやつだが、アテナイの王になってからアテナイに民主制を築いたり評判はよい。 ちなみに、アリアドネは目覚めると酒の神でもあるバッカスに見つけられ、彼の妻になる。、神様の妻になったのだから、こちらもめでたいことである。

 さて、話はクレタ島ではミノタウロスが退治された上に、ラビュリントスから逃げ出され、娘まで連れ去られたミノス王の面目は丸つぶれである。腹いせ交じりに、脱出に協力したダイダロスを迷宮に閉じ込めてしまう。その時に一緒に閉じ込められたのが、ダイダロスの息子イカロスである。

 二人はラビュリントスからの脱出に、一計を案じ、鳥の翼を拾って蝋で固め、鳥が飛ぶように空を飛んだのだった。ミノス王はまたしても地団太を踏んだだろうが、イカロスが海に落ちるのを見て、少しは溜飲を下げたのかもしれない。

記:木田橋 義之(2004-06-24)