スイスアルプスを楽しむ

 2月14日〜2月22日までスキー同好会WSA(World Ski Academy)の23名はスイスへスキーに行ってきた。

 昨年、海外スキーとしてカナダのウイスラーへ行ってきが、異国の雰囲気とゆとり、日本では決して見ることの出来ない氷河を望む雄大な景色の思い出が、二匹目のどじょうを狙って今回の計画を推し進めたのである。

 参加者の平均年令は、64.7才最高令者は74才である。

 スキーを発明したのはスカンジナビア人、スキーを実際に使いこなす技術を世に広めたのがオーストラリア人、そしてスキー・バカンスのアイディアを開発したのがスイス人だという。時間は充分にあり、お金も多少ある自由人の我々は、本当のスキーバカンスとはどんなものかを確かめるために、スイスへ行くことに決めた。

 スイスは九州より少し狭い国で、その5分の3がアルプスの尾根で、尾根の谷間に人の住んでいる町や村がある。バスの運転手の話ではインターラーケンに近い自分の村では、山々の影に入り半年間は太陽の姿を見ることがないという。そういうところの人は太陽を求めて山頂に登るのだといっていた。確かに山の麓は曇りでも山頂は雲海の上に出て晴れていることが多い。

 今回は全日程すべて快晴という好条件に恵まれ思う存分楽しめた。

 スイスにはたくさんのスキー場があるが、有名なのはマッターホルンのあるツェルマットとアイガーやメンヒ、ユングフラウのあるグリンデルワルトである。よくばりな我々は有名な山が多くあるグリンデルワルトへ行くことを決めた。

 旅行会社のツアーで行くと、2月のこの時期では30万円以上かかる。WSAのメンバーは海外経験豊富な人ばかりであり自分自身で自由に行動できる。ツアーに参加してせっかくの楽しみを拘束されながら滑ることはない。安い航空券を購入し、インターネットで現地の観光案内所へホテルや交通の予約を申し込めば10万円は安く出来る。最終的に航空券97,000円、ホテル及び現地のバス、電車、リフト代込みで1,167CHF(約103,000円)とトータル20万円で行ける事になった。

 グリンデルワルト(標高1050m)は"氷河村"ベルナーオーバーランドとよばれこの地方の中心地である。また長野県安曇村と姉妹都市を結んでいる。スキー場としてよりもむしろ登山の基地として、古くは槙 有恒氏のアイガー東山稜初登はんもあり、夏冬を通じて日本人に人気のある村である。

 チューリッヒ空港から195Km,バスで2時間半で着くこの村は、目の前にそそり立つアイガー、シュレックホルン、ヴェッターホルン。かぶさってくるようなユングフラウ、メンヒなど4000m級の山々に覆われている。

 ホテルの窓から見えるアイガー北壁は空をも覆い隠してしまいそうな迫力である。

 スキー場は3つの地区から構成されている。グリンデルワルトの裏庭と言われゴンドラで行くフィルスト地区、登山電車で行くアイガー北壁の真下に広がる広大な斜面を持つクライネシャイッデク地区、ここからまた電車で3454mのユングフラウヨッホへ登ることも出来る。もう一つは電車と世界一長いロープウェイを乗り継いでいく"女王陛下の007"で有名になった回転レストランのあるシルトホン地区である。

 これらのスキー場へは我々が買い求めた6日券で、電車、リフト、ロープウエィ、ゴンドラ、Tバー等すべて乗ることが出来る。

 アイガー、ユングフラウ、メンヒの麓に広がる広大なスキーエリアは、林間コース、森林限界を越えたオープンコース、岩場にあるエキスパート御用達の急斜面、ワールドカップコースなどバリエーションが豊富である。

 この3つのスキー場で総滑走距離が200Km以上、最長滑走距離15Km、ゲレンデの高低差2028mありその広大さが分かると思う。

 遊びの原点は自己責任にある。スキーでも同様である。スイスでのスキーは、雪崩が起きそうな場所や崖っぷちなどの危険な場所にはロープや標識が立っているが、かいくぐって滑っても誰も文句は言わない。日本のようにスピーカーで放送されることもない。但し滑降禁止の場所で滑って遭難した場合、救助隊は助けに行かないことを覚悟しなければならない。岩と岩との間や、崖の上にも、どうしてあんな場所から滑ってきたのかと思うところにシュプールがついている。何処の世界にも、当分の間誰にも消し去られないところに自分1人のシュプールを刻み悦にいっている人がいるものである。グルーミングされたコース外に滑っていっても必ずコースへ出られるレイアウトは、新雪を滑る人にとっては安心して飛び込める。

 しかし基本的にはスイスは観光資源で成立っている国である。周りの雄大な風景を資本にしてスキーヤーを喜ばせることを大事にしている。また交通のネットワークが出来ていて、相互に有機的につながっている。1枚のスキーパスさえ買えば、ベルナーオーバーランド地区でのスキー場までのアクセスは電車、ケーブル、ロープウエイ、リフト バスなど乗り降り自由であり、しかもスムーズに連絡している。管轄が違えばリフトの乗り継ぎに歩かされたり、違うパスを買わされることもない。スキー場でのスピーカーから流れてくる音楽やアナウンスは全くない。電車の出発も何の放送のないまま、いつの間にか動いている。音らしい音はスキーで雪面をシュープするときの音と、風切る音だけである。スキーコースは常に山々が美しく見えまた迫力があり飽きることはない。

 クライネシャイデック(2061m)から登山電車で行くユングフラウヨッホ(3545m)標高差1484m、距離にして7.7Kmを50分で登る。料金はスキーパスを持っていると49.5CHFであるからKmあたりに換算すると約600円と世界最高の運賃と言われている。しかし3000mを越す山の中で、日本の大正時代にアイガーの岩を掘りぬき電車を走らせるとは凄いことを考える人たちである。アイガーの岩の中から見たグリンデルワルトの町はアルプスの谷間に宝石のように見えた。

 食事も日本の冬では考えられないことであるが、2000mを越えるレストランでサンデッキや外へ出て、ワインやビールを飲みながら楽しんでいる。中には上半身裸になっている人もいてびっくりさせられる。外の気温はマイナス10℃は下らない所でである。太陽が出ていて風がなければ寒さはあまり感じないのかもしれないし、チーズや肉をたっぷりとっている人種には丁度良い気温なのかもしれない。我々も真似事をやってみたが様になっていたのであろうか。

 日本ではスキー人口が大分減ってきて、あるスキー場では閉鎖されているところも出てきた。若者はスノボー、中高年はスキーをやっているがリフトの待ち時間もほとんどないくらいにスキー場は過疎化してきている。スイスのスキー場では久しぶりに順番待ちをしてリフトへ乗る必要があった。グリンデルワルトへスキーへくる人はスイス人だけでなく、近隣のドイツ、フランス、は勿論イギリス、オランダ、スコットランドから家族ずれでバカンスに来ていた。

 アルプスはあくまでも大きく、スロープは限りなく広大。村のたたずまいには美しい個性がある。一週間も同じホテルに宿泊していると必ず宿の主人主宰のウェルカムパーティがある。いろんな国の人たちとたわいのない話をして過ごすのだが結構楽しいし情報交換にもなる。そういう人々の暖かいもてなし、自然と人工のバランスこれこそがスキーだけでなく過疎化することなく人々が集まってくる理由ではないかと思う。
 スキー後の楽しみも色々あるスイスワインを飲みながらフォンジュを食べるのもよし、プールで泳ぐのもよしサウナで汗を流すのも良い。サウナは男女同室であり、基本的に何も身にまとうことはしない。今回は3回も良い思いをした。

 はじめは10時頃からスキーを始め、午前中一本、昼食に2時間、途中コーヒーブレイクをはさんで4時にホテル帰着と、シニアらしくゆとりのスキーを心がけたつもりであるが、リフトが止まるまで滑るんだという人もいたのには驚いた。

 特に大きなトラブルや怪我も無く帰国でき、その後日本のスキー場や、アメリカへ飛び、スイスで消費し切れなかったエネルギーを発散された人もいた。

 二匹目のどじょうを狙って計画した今回のスイス・スキーは、二匹目のうなぎに成長して我々を十分楽しませてくれた。

記:伊藤 洋(2003-03-25)