趣味三昧 <<混声合唱>>

 混声合唱を始めて7年が経ちました。昔からの友人は驚いています。家内は楽譜の読めない私が、いつしっぽを巻くかと考えていたようです。私が若い時から胸に秘めていたことなど誰も知りません。「音楽を聴くだけでなく、いつか歌いたいと」合唱を始めて良いことは、私には音楽鑑賞の仲間(先輩)が居ますが、知識と音源の豊かさでとても私の比ではありません。しかし、歌っているのは私一人なので、この点で仲間の中に居られます。

 楽譜が読めなくても混声合唱団に居られるのは次の様な理由です。先生はこうおっしゃってくれます。「楽譜は音楽情報の一部である」と レベルは違いますが世界的に有名なオペラ歌手でも楽譜が読めない人がいるとか。

 第一に男声が少ないことです。素人合唱団の場合大多数が中高年のご婦人によって構成されます。元気なことは他の趣味と同様です。混声合唱するにもメンバーのバランスがとれません。特に高声部が少ないのです。私の場合は、幸か不幸か高声部に属するらしいのです。

 本人はバリトンと思っていますが、一段と声の低いオジサンの中にあっては一応テノールになっています。近隣の混声合唱団にはこれだけで選考もされずに入れます。場合によっては特別に優遇されたりすることもあります。一般に女声の方が男声より訓練が行き届いているようです。本来真面目なのでしょう。音楽に親しんでいる時間が我々より長いようです。男声は訓練不足でいつも指導者の注意が多いようです。人数が少ないので一人が間違えると目立ちます。従って「クチパク」も出来ません。その点男声合唱団は若い時から大学のグリークラブ等で活躍していたメンバーで構成されていて、レベルは高いが数が非常に少ないようです。この点混声合唱団ではそこそこでも少数派であるが故に大切にされます。

 第二に合唱指導者が、私の住むところに結構多く住んでいらっしゃるようです。音大もあってお教え下さる人には事欠きません。音大の先生や学生にとって我々素人の指導が良いアルバイトになる場合があります。ベートーヴェンの「第九交響曲」や宗教曲の「レクイエム」「ミサ曲」のような大曲の場合、練習に数ヶ月掛かりますが、約一時間にも及ぶ曲は素人にとって難題です。懇切丁寧なご指導にも拘わらず演奏に耐えられないレベルで感情的になった指導者に「今日は入歯の具合が悪いのか!」と言われることもあります。

 ほんの一瞬タイミングが遅れたり、一つ手前の音符でスタートしないと声が間に合わないとか、音符の中に言葉が入りきらないとか、音階が合わないとか、簡単な話ではありません。最初は優しい指導者もシビレを切らして自分の後輩や学生を補強として参加させることもあります。その他大曲の場合、ソロの部分はプロにお願いすることになっています。

 従って演奏発表会の時はお金を払って歌う我々と、お金を受け取って歌う人の混成合唱となります。指揮者は素人でタイミングの怪しい我々に細かく合図を送ってくるが、オーケストラも素人なのでそちらにも細かく合図をしたり相当多忙らしい。本番の時、何とかタイミングのつじつまも合って曲が進行すると、指揮者の顔がやさしい口で歌っていたりする。我々をリラックスさせたり、手で間に合わない部分は口で合わせたり、大変な努力の結果我々もこの時とばかりに練習時より大きな声を出して歌い上げます。大きな拍手、下手でも拍手して下さる方々、皆チケットを半ば強制された仲間です。ソロを歌ったプロの歌手も我々に向かって拍手をして下さる。屈辱と恥辱に耐えてやり遂げた自信に満ちた顔・顔・・・・・この時が出来の悪い生徒が指導者の客となる瞬間です。

 合唱指導者や指揮者から賛辞を頂きます。火事場の馬鹿力とか、本番に強いとか、聴衆がいると歌えるじゃないか!とか、いい気分にさせられます。

 ここで、めでたく次年度の再契約に結びつく訳です。お褒めの言葉も大切です。「じじい」「ばばあ」を連発して、再契約を断られた有力な指導者もいました。この様な需給関係の中で私の様な者でも何とか歌うことが出来るのです。

 ベートーヴェンの「第九交響曲」を3回、イタリヤオペラの合唱曲、モーツァルトの「戴冠ミサ曲」、フォーレの「レクイエム」、モーツァルトの「レクイエム」、オペライーゴリ公より「ダッタン人の踊り」、と歌い続けています。古い歌も時代と共に変わりつつあるようです。

 素人にも良く歌われるベートーヴェンの「第九交響曲」も旧来のそれと比べて軽いベーレンライター版が最近は多くなったようです。それより音階も標準に使われるA音の440Hzが最近は442Hzになっているそうです。ややハイトーンなのでしょう。
 夢と現実の乖離が進みながらのアスナロ物語です。
 さー皆さんもどうぞご一緒に アー・エー・イー・オー・ウー
                   ―完―

記:杉山 守(2003-01-27)