本田さんと武蔵

 今年1年、いろいろとお世話になり ありがとうございました。
 今年の大晦日は、地元神社(三重県菰野町:多比鹿たびか神社)の氏子総代をしている関係で神社の社務所で過ごす事になりました。  また来年は年男でいよいよ還暦(2月4日)を迎える事になります。

<剣豪・宮本武蔵の世界>
 来年のNHK大河ドラマは吉川英治・原作「宮本武蔵」が1年間に亘って放映される事になりました。武蔵が単なる剣豪ではなく歴史的にも高く評価されている背景には、晩年に熊本で書き残した有名な「五輪書」が残っているからだと言われています。 吉川・武蔵は巌流島で佐々木小次郎と戦って勝利したところで完結していますが、今回の大河ドラマでは余り知られていない「その後の武蔵」まで初めてドラマ化されているようなので楽しみです。またビートたけしが武蔵の父親役で登場するのも見ものであります。

五輪書ごりんのしょ
 武蔵が究めた兵法の奥義を記したもので、そのすべては人を斬り、敵に勝つための技法と要諦を説いている。肥後・細川藩で晩年(57〜62歳)を過ごし、洞窟に籠って座禅を組みながら2年の歳月をかけて完成させた日本の兵法史上、屈指の書で「地の巻き、水の巻き、火の巻き、風の巻き、空の巻き」の五巻がある。これは仏教の五大五輪に習って構成し、その兵法観を「地水火風空」の活動に類比させながら論じた「二天一流」の伝書であるが、残念ながら武蔵・直筆の五輪書は現存していない。平易な文章で分かりやすく合理的で理知的なこの「五輪書」は、武道やスポーツそして処世訓や経営戦略の参考として、時を超えて現在でも多くの人に親しまれ読まれている。

<本田宗一郎さんと武蔵>
 「本田宗一郎さん」も武蔵ファンの一人であり、熊本の工場建設(昭和50年頃)の視察に来られた際「宮本武蔵が書いた自画像と水墨画を観たい‥‥!」と言われて、熊本市にある武蔵コレクションで有名な「島田美術舘」へご案内した事があった。
 剣豪・宮本武蔵と世界のホンダを造った本田宗一郎さんとは、お互いに通じるものがあるのか2時間近く真剣になって武蔵関連の資料を観ておられたのが印象的であった。
 中でも21箇条に及ぶ自戒の書「独行道」をご覧になって「俺なんかこの中のたった一つさえ守れね えや‥‥武蔵はすごい奴だよ!」と感心されていた。
 またこの頃、社長業を退かれ最高顧問に就任されて趣味の日本画に打ち込んでおられた時であり、武蔵直筆の自画像や水墨画をご覧になり「この筆遣いは大したものだ!」と‥‥とても感動されておられました。

*島田美術舘
 武蔵が晩年に描いた有名な二刀流の自画像「二天一流」、水墨画「枯山水」、自戒の書「独行道」の原本など、武蔵ゆかりの品が多く展示されている武蔵専門の個人美術舘であり、武蔵ファンなら必ず訪れる熊本の隠れた名所です。

独行道どくこどう・21箇条
 武蔵は「兵法の道」を究めるため、人間の極限とも思えるほどの厳しい修業の中で孤独な生活を 送りながら、恋愛も家庭も美食も捨て剣の道一筋に励み自省自戒の書「独行道」を残している。
 下記はその一部
   ・我事において後悔をせず!
   ・一生の間、欲心思わず!
   ・恋慕の道、思ひよるこころなし!
   ・身にたのしみをたくまず!
   ・身一つに美食をこのまず!
‥‥など21箇条にわたる自戒の書は、武蔵が自分に科した厳しい掟である。

 一説によると武蔵は禁欲の人で「童貞」のまま生涯を過ごしたと言われており、従って吉川作品に 登場する恋人の「お通さん」なる人物は史実では存在しない!

 武蔵が剣豪として全国的に有名になった京都での「吉岡清十郎とその一門」と戦った時は21歳、そして歴史に残る巌流島での「佐々木小次郎」との決闘は29歳の時である。その後生死を賭けた戦いはせず、剣の道を究めるべく全国を流浪しながら57歳の時、肥後熊本・細川藩に客分として仕官し、60歳の頃洞窟に籠って「五輪書」を完成させ「独行道」を記して、62歳でその生涯を閉じた。

 私はホンダの熊本工場建設プロジェクト(用地買収担当)との一員とし大阪(営業)から熊本へ転勤したのが昭和49年(31歳)で、その後本社・広報部へ転勤するまで約9年間を熊本で暮らした。熊本では総務部門に所属し地域対応を担当していた関係で地域の多くの方々にお会いする機会に恵まれ、歴史豊かな熊本の状況についていろいろと知る事ができました。武蔵ファンだった私は、郷土史家の先生宅を訪問し武蔵についての史実をいろいろと教えて戴いた懐かしい思い出がある。

 肥後の国・熊本は歴史的にも九州地域における行政の中心的役割を担い、熊本城を築いた加藤清正、19代に亘って肥後・熊本藩を統治した細川藩そして細川ガラシャ夫人、西南戦争の舞台となった熊本城と田原坂、更には天草、阿蘇山、五木の里、水前寺公園、球磨焼酎‥‥など、歴史と人情と自然がとても豊かな所で最高でした。歌手の水前寺清子、八代亜紀、石川さゆり、プロ野球界では川上哲治(元・巨人)、江藤慎一(元・中日)、古葉竹織(元・広島)、秋山幸二(元・ダイエー)、伊藤勤(ダイエー)がおり、他にもねずみ講で天下を騒がせた天下一家の会・内村健一、稀代の悪人・オウム真理教の麻原彰晃も熊本出身であり、このように多彩なスターを生んでいるのも熊本であります。毎年5月頃、ホンダ熊本OB会が開催されているので、来年は再び「武蔵ゆかりの名所」を散策しょうと思っております。

 武蔵の剣の道に対する厳しい取り組みは、本田さんの妥協を許さなかった技術の道に通じるものがあり、共に晩年になって絵画を楽しんだその姿勢に共通するものを感じました。
 剣術の天才…宮本武蔵と技術の天才…本田宗一郎は、多くの人から親しまれ敬愛され、いつの世まで語り継がれる真の勇者であると思います。

記:諸岡 忠至(2002-12-29