毛勝山(日本二百名山)登山記
難しい山から登る 登山道がないので積雪期の登山となる。標高差1400mの雪渓(注:白馬岳の大雪渓は標高差300m)を登る。特に山頂付近は斜度30度の雪渓の急登が標高差300m位続く。一番危険なのが落石である。雪渓の上を転がり落ちるので音がしない。独りで登るにはリスクが大きすぎる。勝手を知ったエキスパートと登るか登山ガイドが案内するツアーに参加するしか方法かない。 いろいろ調べていると、近畿日本ツーリストに二百名山を登る企画が出来た。5月に毛勝山に登るというので2月末に申し込む。案内書を見ると8本歯以上のアイゼン、ピッケル、雪山用登山靴、ヘルメット、安全ベルトなどが必要となっている。持っていない装備は購入したが、雪山用登山靴すなわち革製登山靴は足慣らしが必要だ。毎朝のランニングを革製登山靴を履いてのウォーキンクに切り替え100km以上歩いて足との相性をチェックした。
近畿日本ツーリストのツアーに参加
事前ミーティング
登 山 山頂直下の斜度30度、標高差300m位の急斜面が最大の難所だ。2つのグループに分けロープに3m間隔で補助ロープを結び、前後をガイドという編成で数珠繋ぎになって登る。途中、直径10cm位の落石が私と下の人との間を通り抜ける、冷や汗が出る。落石のスピードが若干遅かったため避けることが出来た。中間あたりで左足の筋肉がつりはじめる。急斜面を登りきり尾根に出ると北アルプスの全山が見渡せる大展望がひらけた。 今日は全山雲がかかっていない晴天だ。特に、近くにある残雪の多く残る剣岳がひときわ際立って立派に見える。重たいカメラと三脚を持ってきた甲斐があった。山頂でガイドが沸かしたコーヒーが暖かくうまい。充実した達成感、生きる幸せを感じるひと時である。 下山時、斜度30度の雪渓の下の方に降りてきた時、上の方から「ラック(落石)!」という大きな声が聞こえてきた。振り向くと直径70cm位の大きな岩が車輪のように転がり落ちてくる。雪渓の右端から我々のグループが下降している雪渓中央部に向ってくるではないか。ロープでお互いを結びつけているので逃げようにも体の自由がきかない。一瞬パニック状態となる。石は我々のグループの中央部を通過した。私の場所から数m下の人のヘルメットに衝撃を与えて通りすぎた。奇跡的と言おうか、その東京在住71歳のAさんは無事であった。Aさんの気持が落ち着いた翌日の言葉、「私は9歳のときから山登りをしており、その体験から、反射的に体を伏せたので助かった」
またこのツアー中にAさんが言った印象に残る言葉を追記する。 毛勝山には今年登山道が完成する。この雪渓を登る人は今後一部のマニアだけになるであろう。このパニック的な思い出は忘れ難いものになるであろう。 記:大澤 敏夫(2002-06-12) |