山登りは単なるスポーツではない
それは 哲学的行為である

 感ずるところ有って50歳から山登りを始めました。
 中高年の登山といえば 日本「100名山」や「200名山」を目指して頑張っている愛好家を結構多く見かけます。小生などは登山の経験も浅く技術や体力も無く、生涯やっても達成できそうもありません。しかし 人生すべからく何か目標があるほうが良いのです。 そこで 日本の3,000m峰全登頂を目標とする事にしたのです。 数え方にもよりますが 我国には24座の3,000m峰が有ります。 南北アルプスに11座づつ、中央アルプスに1座それに富士山です。この数字なら既に登った山もあり、こつこつやれば何とかなると思ったのです。さて この写真は今夏までに登った山の一部です。 北アルプスに11座ある目標のうちこの写真にそのうちの8座が写っています。 しかも横1列に並んでいます。

 右から 槍、大喰岳、中岳、南岳、北穂高、涸沢岳、奥穂高、前穂高です。まさしく日本の屋根といっても良いでしょう。並んでいるから 縦走すれば良いのですが この山域は横に動くと危険個所が無数にあるのです。その最たるものが写真の中程に写っている切れ込みで 大キレットと呼ばれています。 山小屋の主人によれば これまでに何人かが転落しているという悪場で 浮石等で足を踏み外せば300mは落下し遺体は原型をとどめないそうです。 遺体の収容はヘリコプターにお願いすることになるが その費用が1時間につき80万円掛かったと毎年上高地まで慰霊に来ていると言う見知らぬ老夫婦から聞きました。小生が通過する予定の朝はあいにく夜半からの横殴りのみぞれが降り続きおまけに深い霧でした。不安がよぎる。この縦走ルートなかんずく大キレットの情報は 事前に仕入れていたので 山小屋で一日天気待ちをする事にして翌日に出発しました。とにかくルートの両サイドが身震いするような絶壁で深く切れ込みナイフエッジの尾根です。 しかもその距離が長いのです。 細心の注意かつ大胆にそんなこんなで無事に槍・穂高連峰縦走を果たし小生としては大袈裟になんだか生還した気になったので、何か安全な普通の山登りがしたくなって蝶ヶ岳に上ったのです。そして撮ったのがこの写真と言うわけです。

 考えてみれば 50歳から始めた山登りの動機は 健康維持と思考と楽しみの為であって 苦しみやスリルを味わう為ではない、又訓練が目的でもありません。 この山行から小生の山登りは初心どおり安全と思考(心の散歩)第一となったのです。3,000m峰といえども万全の準備とルートと季節や天候の選定によってより安全な登山が出来るのです。 槍・穂高連峰も個別に攻めればそんなに危険ではないのです。

 北アルプスはこのあと立山の雄山と大汝山も終わりました。 乗鞍は便利すぎてキノコ狩りに出かけたりして 頂上は何回か踏んでいます。 富士山も若きより数回登っているが3000mの仕上げに最後にもう一度だけ登ろうと思っています。 南アルプスは北部の千丈ヶ岳、北岳、間ノ岳は終わり農鳥岳から南が残っています。 南アは南部に行けば行くほど山が深くアプローチが長くなり大変になります。 しかし、「体力のあるうちに」が条件ではあるが ばたばたと急ぐことでも無いのです。「山高きが故に尊からず」「100の頂きに100の喜びあり」 2000mクラスや近郊の低山の思考ハイキング中心に楽しんでいる小生にとって3000m峰はコツコツじっくり味わいながらやっていこうと思っています。

寄稿:今玉利修司(imasan)(2001-8-23)