レクサス時速190キロ「アクセルが…」
 通報直後衝突

 時速200キロ近い猛スピードで疾走する高級車から届いた悲痛な叫びが、運転席のフロアマットに潜む危険性を白日の下にさらけ出した。

 通信指令係「こちら緊急電話番号。どうしましたか」

 通報者「アクセルが動かない。トラブルが発生した。ブレーキも利かない」

 通信指令係「分かりました。車を止めることができないんですね」

 通報者「交差点が迫っている。交差点が迫っている。つかまって。祈って……」

 通信のやりとりを詳報した米ABCニュースなどによると、緊急通報があったのは8月28日。米カリフォルニア州サンディエゴ郊外を走行中のトヨタの高級車「レクサスES350」からだった。

 運転者は州警察の高速隊員で、妻と13歳の娘、親族の男性の3人が同乗していた。事故直前には、操縦不能の状態で、時速は120マイル(約190キロ)に達していたとみられる。そのまま交差点に突入し、他車と衝突して大破し炎上。この4人が亡くなったという。通報がなければ、原因は何一つ分からずじまいになった可能性がある。
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 米国で4人死亡の暴走事故を起こしたトヨタの高級車レクサス「ES350」は、犠牲者がトヨタ系販売店から、自分の車を整備のため預けている間、借りていた「代車」だったことが分かった。ES350の所有者は、フロアマットがずれると暴走する恐れがあることを07年のリコールを通じて知らされているが、今回の犠牲者は自らの車はリコール対象でないため危険性を認識しないまま乗っていた可能性が高い。トヨタが系列販売店を通じてどのように注意喚起していたかが一つの焦点になりそうだ。

 関係者によると、事故で死亡したカリフォルニア州高速警察の隊員であるマーク・セイラーさん(当時45)は、自分の車を整備のために販売店に預けた。セイラーさんの車はES350とは別のレクサス車だった。

 8月28日、販売店から借りて乗っていた代車は暴走。妻、娘、義理の弟とともに亡くなった。これまでの調べで、代車の運転席には、トヨタ純正だがES350用より前後がやや長い、別のレクサス車用の全天候型フロアマットが装着されていた。

 米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)やトヨタは、何らかの理由でこのマットにアクセルペダルが引っかかり、アクセルが全開のまま戻らなくなって車が暴走した可能性があるとみている。

 代車に全天候型フロアマットを取り付けたのがセイラーさんなのか販売店なのか、地元警察当局は明らかにしていない。しかし、セイラーさんがES350の所有者で07年のリコール通知を受けていたなら、こうした長い全天候型フロアマットが付いた車に乗らなかった可能性がある。

 トヨタは「適切にマットを固定し、二重に敷くようなことをしなければ、トラブルは発生しない」と主張しているだけに、販売店を通じてセイラーさんに対し注意喚起をしていたかが問われることになりそうだ。この販売店は現時点では取材に応じていない。

 トヨタは9月16日に全米の系列販売店に対し、マットが適切に装着されているかを点検するよう通知。9月29日には米国で販売した7車種、380万台のユーザーに、すべての運転席側のマットを取り外すよう求めた。トヨタ社内には、できればマットだけの問題にとどめたいとの意見もあったとみられる。

 しかし、08年にマット以外に車の構造的な問題があると指摘する調査報告書をまとめていたNHTSAは、今回の4人死亡事故を受け、マットを回収すれば済む問題ではないとの姿勢をさらに強めた。長さや形が少し違うマットを敷いたぐらいでは死亡事故が起きないよう、誤った使い方も想定して常に安全でなければならないとする「フェイルセーフ」の考え方が根底にある。

 こうした経緯からトヨタも10月5日、マットが不適切に使われても事故が発生しないよう、電子制御装置やアクセルペダルなど車両本体を改良するリコールを実施する意向をNHTSA側に伝えている。(中川仁樹=サンディエゴ〈米カリフォルニア州〉、久保智)

asahi.com(2009-10-17)